赤いブログ 弁護士を呼んでくれ

刑事弁護について、研究するブログです。

俳優伊藤さん轢き逃げ事件/身体拘束について

TVのワイドショーを信じちゃイケないよ。な件

 

10月28日午後5時45分ころ、有名俳優が、自動車をUターンさせようとしたところ、対向車であるバイクと衝突。バイクに乗っていた男女2名に怪我をさせ、救護もせず、通報もせず、走り去った、とされる事件。

その日の夜、有名俳優は逮捕されました。ざっくり調べたところ、現行犯逮捕などではなく、逮捕状による通常逮捕だと思われる。

 

今、記事を書き始めたのは10月30日午後2時ころ。

検察庁は、今日、午前中に勾留請求をして、勾留裁判の結果待ちの状況にある。

有名俳優の事件なので、テレビのワイドショーが嬉しくなって取り上げている。

 

まず、ひるおび

「勾留は最大で23日間です」と説明。

 

そうだよな。

48時間+24時間+10日+10日=23日間

計算は正しいな。と聞き流した専門家もいるかも知れない。

でも、勾留最大23日間は、明白は誤りなのだよ。

条文を見ながら確認していこう。

 

刑事訴訟法

二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、(略)留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

第二百五条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、(略)留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。

この2つの条文が48+24の根拠だ。一般的には、簡略化して3日間と言う。

203条は「四十八時間以内に(略)検察官に送致する手続をしなければならない。」

204条は「被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に」

警察が送致手続きをしてから、検察官が被疑者を受け取るまでに、時差があるだろう。だから48+24の間に数時間が挟まることになる。しかし、72時間の合計時間を超えることは許されない。どちらかの持ち時間を削って調整しなければならないのだ。

第二百五条
2 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。

重要なことは、この3日間は勾留ではない。ということだ。

第二百五条 検察官は(略)二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。

となっていることから分かるように、3日間以内に検察官が勾留の請求をし、裁判官が勾留決定をしてから勾留がはじまる。それ以前は勾留ではない。この3日間は、逮捕の効果による身体拘束である。

勾留期間の最大は、10日+10日の20日であって、23日ではないのである。

 

つぎ、ゴゴスマ

清原博国際弁護士のおことば

「勾留の結論は今日の夕方頃出ると思う。」

これは東京の勾留実務を知らないことを自白したのと同じだ。

東京地裁では、被疑者の身体拘束に関する裁判は、刑事14部が一手に引き受けて判断している。東京は事件数が多いので、専門部を設けているのだ。

203条205条が捜査機関に厳しい時間制限を設けているのだから、裁判所も速やかに審理し「勾留する・しない」の判断を下し、勾留請求を却下する場合には、直ちに検察官に被疑者の釈放を命じなければならない。

第二百七条
5 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき(略)は、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

「速やかに」だから常識的には「その日のうちに」結論がでる・・・はずだ。東京を除く、日本全国の裁判所は、それを実行しているはずである。

ところが、東京地裁は、事件数が多いことを理由に、勾留請求の審理を翌日午前中に行う。東京の刑事弁護人の常識だ。

裁判官が、勾留の裁判をするには、被疑者を呼んでその言い分を聞かなければならない。これを「勾留質問」という。

刑事訴訟法に「勾留質問」をしなければならない。という直接的な条文はないが、207条2項が、裁判官が被疑者に被疑事実を告げることを予定している。つまり、裁判官の面前に被疑者を連れてくることが前提とされている。

裁判官の面前に被疑者を連れてきたら何をするのか?
勾留質問がなされる。と考えられるのだ。

第二百七条
2 前項の裁判官は、勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に(後略)

東京地裁では、この勾留質問を、勾留請求の翌日午前中にまとめて実施する(大病院の外来診察のように、次から次へと、実施される)。

具体的には、勾留担当の裁判官は、朝、昨日届いた勾留請求書類を読み、被疑者(警察、検察が、用意周到に裁判所に連れてきている)に勾留質問を実施し、請求書類と被疑者の言葉から、勾留を認めるか、認めないかを決めていく。

弁護人がいるときには、勾留質問の前に(前の晩か、朝一番)、裁判官に意見書を提出するか、裁判官面接を求めるか、その両方を行い、被疑者が勾留されないよう活動する(しない人は、手抜きと言っても良い)。

ということで、今日の午前中の勾留請求に対して、今日の夕方に結論が出ることなど、よほどの例外的な事件でない限り、東京ではあり得ないことなのだ。

清原博国際弁護士。残念!

この国際弁護士、さいたまの弁護士だから、知らんことには口を挟まない方が良かったね。

 

次の清原博国際弁護士のおことば

現地のレポーター「勾留の結論が出るのは明日になると予想されています。」に対して

「他の事件などが立て込んでいる場合には、明日に持ち越すこともと思う。」

明日に持ち込まれるのは、上記の通り、東京地裁独自の方法で、事件が立て込んでいるかは関係ない。またしても、墓穴を掘った。

 

清原博国際弁護士のおことば

MCの「勾留は10日間なんですか」との質問に対し

「原則10日ですが、裁判官の判断で5日とかになることもある」

え?耳を疑ったよ。

すでに出てきているが、勾留日数は最大10日+10日の20日だ。最初の勾留+延長だ。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
条文を読めば分かるが、最初の勾留は10日間、延長は10日以内で裁判官が日数を決める。延長の場合は5日とか7日がありうる。

国際弁護士は、勾留延長と混乱したんだろうな。恥ずかしい。

 

次の清原博国際弁護士のおことば

「勾留却下の場合にも、所持品返却等のため一旦湾岸署に戻り、そこで釈放になる。」

これも、間違いね。

勾留質問のために東京地裁に来ている被疑者は、東京地裁で直ちに釈放される。裁判官は、刑訴法207条で直ちに釈放を命じるのだから。直ちにだ。

(再掲)第二百七条
5 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき(略)は、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

その証拠に、湾岸署に帰る車では、手錠をしてないはずだから、画像が流れたら確認してみてご覧。

湾岸署に連れて行くのは、所持品を取りに行くための警察のサービス。所持品は、捨てちゃって下さい。とか、あとで取りに行きます。今日はとにかく早く帰りたい。と言えば、裁判所から帰れる。

 

 

と、テレビのワイドショーをdisるのは、ここまでにして、本質的な問題を語ろう。

 

勾留請求の時間問題。

東京の全件翌日回し問題。と言っても良い。

 

検察官の勾留請求が認められて、勾留状が発付された場合、10日間の勾留が認められる。この10日間は、勾留請求の日から換算されるから、東京方式で勾留状発付が1日遅れたところで、最終日が変動することはない。被疑者が損することはない、と言い換えても良いい。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

他方、即日審理の場合、勾留請求が却下されれば、被疑者はその日のうちに帰れる。翌日審理(東京方式)の場合には、審理を待つため、一晩、ムダに警察にお泊まりしなければならない。東京方式は、被疑者にとって、とっても不利なシステムだ。

東京の弁護士は、それが当然と飼い慣らされてしまい、あまり問題視していない。問題視してない、というより、気が付いてすらいないのである。これは大問題だ。

勾留却下の事案が少ないのも、影響しているであろう。

 

この問題は、東京三会が力を合わせて、東京地裁と闘って、改善せねばならない大問題である。

 

 

 

 

 

午後2:38ニュース

ゴゴスマ検察庁が勾留請求を取り消した。