赤いブログ 弁護士を呼んでくれ

刑事弁護について、研究するブログです。

*1 2時間サスペンスの法律監修 京都祇園入り婿刑事

今日の題材は

京都祇園入り婿刑事事件簿#11
「絢爛豪華な着物が招く連続殺人 花柳界に衝撃!消えた他殺体の謎!?わが子よ、着物に秘めた美人デザイナーの悲しい過去」

長いサブタイトルだ。

美人デザイナーを演じるのは、多岐川裕美。

サブタイトル通りの美人さんだ。結構好きなんで、見ることに。

 

入り婿刑事役は、ジプシー刑事こと飾り職人の秀さんが、京都府警の刑事に表の顔を変えて、悪い奴らを懲らしめる。

人気シリーズらしい。

合法的にやらないところが、秀さんらしいではないか。

じゃ、その違法性を暴いていこうか。

 

 

最初の殺人事件は、美人デザイナーのマネージメントをしている男(ヤマダカズノリ)が、石段の上で鈍器で頭を殴られて、石段を転落して死亡した事件。

美人デザイナーの娘(ナムラマユミ)が、事件そのものは見てないが、事件前後の犯人(アズマタカシ)を目撃し、証拠物件を持ち去った。

娘は、それをネタに、犯人を恐喝し1000万円を得ようと企んだ。

娘は、証拠物件を母親に預け、「私に何かあったら、袋を開けずそのまま警察に届けて。」と言い置いて、1000万円を受け取りに行く。

しかし、娘は犯人にクロロホルムを嗅がされ、略取され監禁される。

娘が行方不明になったと秀さんから聞いた母親は、娘が拉致られたことを察知する。母は、娘と証拠物件を交換する条件で、犯人と会う約束を取り付け、秀さんと二人で交換場所に行く。


犯人は、娘の両手を縛り、口にガムテープを貼って連れてきていた。

娘の頬には殴られたような痣が付いていた。

母と秀さんが現れると、犯人は秀さんが刑事であることを知っており、「なんで刑事なんか連れてきたんだ。」と激高し、娘にナイフを突きつけて、「近づくと娘を殺すぞ」と脅す。

・・・なんやかやで娘救出に成功・・・

逃げる犯人。

応援の刑事に助けられ、追いかけてきた秀さんが犯人を逮捕する。

その際の

秀さん刑事の決めゼリフ!

「アズマタカシ!ヤマダカズノリ殺害容疑、及び、ナムラマユミ拉致監禁、傷害の現行犯で逮捕する!!!」

 

刑事訴訟法

第二百十二条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
② 略
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
ナムラマユミ事件で現行犯逮捕するのは、まあ、いいだろう。

秀さん自身が、両手を縛られ、口をガムテープで塞がれ、頬に痣のあるマユミさんを見ているのだから、現行犯逮捕の要件は揃っていると言ってよかろう。

 

しかし

拉致監禁とはいかに?

おそらく北朝鮮による日本人拉致事件がキッカケと思うが、人さらいのことを「拉致」「拉致る」ということが多くなった。上記でも、意識的に一ヵ所で使ってみた。違和感は無かったのでは中廊下。(←この誤変換には違和感あり)


ところが、我が国の刑法には「拉致」という罪は存在しないのである。

対応するのは、この条文だ。「拉致」ではなく「略取」「誘拐」が刑法上の犯罪名である。

「略取」とは、暴力等を使って無理矢理連れ去ること。「誘拐」とは言葉巧みに騙して連れ去ること。

と大まかに理解しておこう。

(ちなみに、監禁罪は存在するから、正解。但し、怪我をさせているので、単純な監禁罪では無く、監禁致傷罪が本当の正解だろう)

刑法

(営利目的等略取及び誘拐)
第二百二十五条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
(身の代金目的略取等)
第二百二十五条の二 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。

(逮捕及び監禁)
第二百二十条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
(逮捕等致死傷)
第二百二十一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。



犯人は、最初から1000万円を支払う積もりはなく、娘(といっても、成人している)を捕らえて、証拠品の在処を聞き出し、奪還しようと試みたのだろう。だから、娘の顔に痣があるのだ。
ということは、刑法第二百二十五条営利目的等略取及び誘拐の罪ということになるな。
今回は、クロロホルムを使っているから「略取」だ。
しかし、拉致ではない。そもそも、拉致罪なんて、存在しないのだから。
途中から、娘の身を安否を憂慮する母親から、証拠物を取り戻そうとしたから、罪名が刑法第二百二十五条の二(身の代金目的略取等)第二項の罪に変更になっている。
いずれにしろ、目的部分は異なっても「略取罪」である。
秀さん刑事は、法律用語を間違えたようである。
もしかしたら、敢えて間違えたのかも知れない。なにしろ、非合法的に悪を懲らしめるのが趣味なのだから。


最大の問題は、

その一言前である。

秀さん刑事は「ヤマダカズノリ殺害容疑」でも逮捕する。と勇ましく宣言した。

しかしだ。

刑事訴訟法
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。

「ヤマダカズノリ殺害容疑」については現行犯ではないから、逮捕するには、裁判官のハッスル逮捕状が必要だ。
秀さん刑事が、お母さんに娘の行方不明を伝えるまで、秀さん刑事は犯人の名前すら知らなかった。お母さんが、犯人の目星を付けて連絡を取り、娘との交換を決めたのである。
それから、すぐに交換場所に向かったから、裁判官のハッスル逮捕状なんか用意する時間的余裕は無かった。つまり、逮捕状による逮捕はできない。

さてさて
日本の刑事訴訟法上、逮捕には3種類がある。
①逮捕状による通常逮捕
②現行犯逮捕
この2つは、説明墨田。誤変換。三つ目は、
緊急逮捕

刑事訴訟法
第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。

「ヤマダカズノリ殺害容疑」は殺人という重大犯罪で、死刑まであり得る。
刑法
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

緊急逮捕の要件の内、罪の種類は間違いなく満たしている。
娘が略取され、命の危険がある。急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、の要件も満たしていると言ってよいだろう。

しかし、

罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合
に当たるかどうかは微妙なところだ。

実際にドラマを見て貰わないと機微は伝わらないが、ヤマダカズノリがアズマタカシを殺した犯人だと、疑うに足りる充分な理由があるか、ちと疑わしい。
娘は殺害現場を見ておらず、その前後しか見ていない。つまり、確実な目撃証人ではない。
証拠物件も、科捜研に持ち込んで、沢口靖子達に鑑定して貰えば、ヤマダカズノリの指紋やら、付着物やらが出てくるだろうが、そんな余裕は無かった。
これが証拠です。と言う言葉だけなのだ。
ということで、この部分にも違法の臭いがプンプンしてくる。

それ以上に

絶対に許せない部分がある。
緊急逮捕に必要な
急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。
秀さん刑事は、逮捕状を求めることが出来ない理由を、被疑者であるヤマダカズノリに告げていないのである。
これは、明確に緊急逮捕の手続違反である。
有能な弁護人が就いたならば、必ず、そこを攻めてくる。たぶん、負けるだろう。
秀さん刑事、大失態の巻である。
否、非合法な手段で悪人を懲らしめるところが、秀さんの真骨頂なのである。

このドラマのエンドロールには、法律監修は出てこない。
弁護士等の指導を受けていないのだろうか。
最終責任は、監督である長尾啓司にあることになるのかな。