赤いブログ 弁護士を呼んでくれ

刑事弁護について、研究するブログです。

*2 2時間サスペンスの法律監修 走る!国選弁護人

まず読者の皆さんに訴えたいのは、このドラマには立派な法律監修が就いている。ということであります。

その法律監修を行ったのは

日比谷共同法律事務所

成田茂弁護士先生様であります。

ドラマのエンドロールにハッキリと表示されております。

 

今回の教材は・・・

走る!国選弁護人

完全黙秘・初登場弁護士高杉貫一郎の窮地

(2004年放送。まだ裁判員制度がなかった時代。被疑者国選もなかった)

完全黙秘という言葉に惹かれて、観察することにした。

 

 

 

主役の弁護士は、村田雄浩。

男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」で「足が長くて格好いい」ランちゃんの恋人役を演じた。

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寅次郎かもめ歌より

2時間サスペンス「絆」では、精神に障害のあるランちゃんの弟も演じている。

2020/12/28 07:40-09:40(120分)

CATV500ch チャンネルNECO にて放送あり

あだち充原作で実写ドラマ化された「陽当たり良好」(伊藤さやか主演)では、「見た目が怖~い」応援団長を演じた。

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応援団長

今では、どちらかというと見た目とギャップのある「優しい役」「気弱な役」が多いようだ。

スーちゃん主演(?)のNHK朝ドラ「ちゅらさん」でも気弱な隣人を演じている。

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「似ている!」と妄想モードに入った柴田さん

高杉弁護士は、息子の説明によると、離婚事件などよりも、刑事事件が好き。というボクみたいな弁護士だ。

儲からないので、妻(川上麻衣子)は塾の先生をして家計を支え、一戸建の家を持つことを夢見ている。そうか、ボクに足らなかったのは、塾の先生をして支えてくれる妻だったのか。

 

 

まずは

第一回公判の様子を覗いてみよう。

 

裁判長:起訴状の朗読を
(起訴状には、被告人の住所や氏名とともに、これから開かれる裁判の対象となる事件の概要(公訴事実)が書かれており、それを読み上げるところから裁判が始まる。裁判長が、起訴状の朗読を促しても、検察官は、被告人の住所や氏名等を朗読することは無く、公訴事実と罪名罰条だけ朗読する)

検察官:公訴事実

 被告人は、平成15年7月6日午後10時20分頃、大津市浜大津5の4春田ビルの北側道路をバイクで走行中、同ビルの駐車場から道路に発進してきた同ビルのオーナー春田敏和(51才)運転の乗用車と被告人のバイクが接触しそうになり、言い争う内に喧嘩となり、同駐車場の隅にに置いてあった工事用の鉄パイプで、被告人は同人を殴打し、頭部挫傷および頸椎骨折の傷害を与えて逃走、同人はそのまま現場に放置され、救急車で大津市春日井町二丁目3番所在の大津北市民病院に運ばれたが、同日1時38分頃、同病院において、頭部挫傷および頸椎骨折により死に至らしめたものである。 

罪名及び罰条 傷害致死 刑法第205条 終わります。

裁判長:被告人には黙秘権があります。・・・略

裁判長:被告人は、今検事が読み上げた起訴状の中でどこか違っているところがありますか。

被告人:ありません。

裁判長:弁護人は?

弁護人:ありません。

裁判長:(検察官に向かって)それじゃあ、冒頭陳述を

検察官:(立ち上がって、書面を手に持ち、読み上げる)被告人に対する冒頭被告事件について、検察官が証明しようとする事実は以下のとおりである・・・・・

 

周辺事情を知らなくても、この公訴事実を読んだ法曹資格者なら、何カ所か赤を入れて書き直したくなる。

つまり、形式的な誤りが沢山ある。
さあ、あなたは、何カ所見つけられるかな?

末尾に、ブログ主なりの公訴事実を書いておくから、参考にしてくれたまい。

 

事件は滋賀県で起きた。裁判所も大津地方裁判所だし、起訴したのは大津地方検察庁の検察官だ。

(だが、被告人が収監されているのは、京都拘置所だ)

全国どこの検察庁でも、担当検察官が起訴状を作成し、裁判所に提出する前に、上司が決裁する。大津地検程度の規模だと、次席検事が最終決裁をするだろう。次席検事が、怠慢で(無能で)見過ごしたんだろうか。

それとも、ドラマの法律監修者の見落としか!

見落とし、というには、あまりにも大きなミスだらけなのだが。

かく言うボクも、テレビドラマの法律監修をした経験がある。テーマは当番弁護士だった。ドラマ進行上に大きなミスを発見し指摘したが、それはドラマの核となる部分で、それを直してしまうと、ドラマのストーリーが90度曲がってしまう。ということで、ボクの意見は却下された。幸いにして、先輩弁護士(刑事弁護は素人)の下請け仕事だったので、ボクの名前はエンドロールに乗らなかったので、恥をかかずに済んだ。

しかし、このドラマで、公訴事実の間違いを直したところで、ストーリーに影響は一つもない。訂正の意見が通らない理由が見つからない。法律監修者が、訂正の意見を出さなかったと考えるのが妥当では無かろうか。

念のため、このドラマの法律監修は成田茂弁護士先生様である。

 

 

 

そして、検察官の冒頭陳述だが、好意的に解釈して「冒頭被告事件」と書き起こしたが、どうしたものか。

聞き流すと「強盗被告事件」に聞こえるのである。だとしたら明確な誤りだ。だって、本件は「傷害致死被告事件」なのだから。

しかし「冒頭被告事件」って言うかな?そんな言葉、聞いたことないぞ。せめて「頭書被告事件」だろう。それなら、ありそうな気もする。

 

 

さて、第一回公判日から、少し時を戻そう。

 

本件は国選弁護事件である。

現在では(平成18年10月2日以降)、国選弁護人の候補者を法テラスが(弁護士会の指名に基づいて)裁判所に通知し、裁判所は、その通知に基づいて国選弁護人を選任する。

このドラマの頃は、まだ法テラス制度がなく、裁判所が直接弁護士会に推薦を求め、その推薦に基づいて国選弁護人を選任していた。

弁護士会内部での推薦方法は各弁護士会によって様々である。

ドラマの対象となった滋賀弁護士会では、国選弁護配点日が決まっていて、その日に弁護士会館に行くと、国選弁護人を募集している事件が並んでいて、会員弁護士が、そこから事件を選び(立候補し)、裁判所の選任を受けると言う設定である。

(ブログ主は、実際の滋賀の取扱を知らないので、無責任な発言になるが、おそらく実際は異なると思う。その方法は、東京のような大規模弁護士会で取られていた方法であり、失礼ながら、滋賀のような小規模弁護士会では採用されていなかったと想像する。脚本家が東京の方法しか知らず、全国も一律同様と安易に考えていたのであろう

 

 

国選弁護人の選任は、細かく言うと、国選弁護人を選任すべき要件が整ったので、当該被疑者被告人に「国選弁護人を付す決定」と、具体的な人選が終わって、その弁護士を弁護人に選任するという「弁護人選任命令」の二段階に分けることが出来る。前者は、黙示的になされ、明瞭に記録に残されることは無い。後者は、命令書が作成され、弁護人と被疑者被告人に交付される。

 

ドラマに戻ろう。

高杉弁護士は国選弁護配点日に弁護士会館に向かうが、途中、ひったくり事件に遭遇し、犯人を追いかけ逮捕するというハプニングがあり、集合時間に大幅に遅刻する。

すでに、総ての国選弁護事件は、他の弁護士が持って行ってしまい、在庫ゼロであった。あら、残念。

そこに現れた滋賀弁護士会の重鎮弁護士植木等(日本一の無責任男)。弁護士会の会長である。高杉弁護士は、初めてお目にかかります。と挨拶するが、滋賀弁護士会の小規模会で、お互いに見知らぬ人など居ないだろう。ましてや会長ともなれば。

植木等は、ある事件を高杉弁護士のために取り置いてくれた。在庫ゼロではなかったのだ。植木等は、この事件を難事件と見破って、見込みのある高杉弁護士に、あえて、あてがったのである(本当か?)。

国選弁護事件配点の時点で、弁護人に示されるのは起訴状と第一回公判日の予定だけ。その他、事件がニュースなどになっていれば、それは自然と耳に入るかも知れないが。

仮にニュースになっていたとしても、今回の被告人は自白している。難事件になりそうもない(高杉弁護士も、国選弁護人になた当初は難事件とは思ってもいなかった)。それなのに難事件だと論破した植木等ただ者では無い。

植木等「あなたの今度担当する事件はこれです。傷害致死事件です。若い頃の苦労は買ってでもしろと言います。勉強になりますよ」と言って去って行った。さすが日本一の無責任男である。

 

(高杉弁護士独白)刑事事件の裁判では、被告人の経済的な理由などで自分の弁護人を頼めない場合には、刑事訴訟法第36条第37条第38条により、裁判所が弁護士会に国選の推薦を依頼し、名簿に登録された弁護士が選任されます。まず、弁護士会館で受任手続をして、それから裁判所で「国選弁護人選任命令」を交付してもらって、私は立花克己の傷害致死被告事件の国選弁護人となるのです。

 

おーい、だれか法学部の学生をひとり呼んでくれないか。学生レベルでも、ここに沢山の間違いがあることが分かるだろう。

刑事裁判や国選弁護制度を知らない視聴者に分かりやすく説明するための独白であろうが、あまりにも酷い。

ただ、六法全書を見ないで、実務だけダラダラやっていると、こういう誤解をする弁護士もいないとも限らない。

 

解説しよう。

前半「刑事事件の裁判では・・・弁護士が選任されます。」の部分には、大きな間違いは無い。

「裁判所が弁護士会に国選の推薦を依頼し」ということは、事実行われていた。

ここで「国選」というのは、正確には「国選弁護人となる候補の弁護士」である。ちょっと省略しすぎて、理解を困難にしている。

ただ、この書き方だと「裁判所が弁護士会に国選の推薦を依頼し」が、刑事訴訟法36~38に基づく法律上の行為と受け取られるであろう。しかし、刑事訴訟法には、そのような規定は、どこにもない(なかった)。

ここに至ったのには、先輩弁護士たちの長く苦しい戦いがあったのだが、それを書いていると年が明けてしまう。

単純に言うと、裁判所が扱いやすい弁護士を選んで選任すると、被告人のためにならない。だから、弁護士会がその事件に適任の弁護士を推薦するから、裁判所は「原則として」その推薦を丸呑みして、その弁護士を国選弁護人に選任する。という紳士協定のようなものを作り、守ってきた。

(実際に、その事件を担当するに適任の弁護士を推薦できているか、というと、刑事弁護委員会が注目するような大事件には、それなりの弁護人を手配しているが、それ以外の(そして大部分の)事件については、弁護士会は人選に関与せず、各弁護士が勝手に事件を選んでいるのが実状である。改善が望まれるが、そう簡単なことでは無い)

法律的には、国選弁護人の選任には、上記水色部分の様に二段階の手続がある。第一段階の「国選弁護人を付する旨の決定」をした事件は、裁判所が弁護士会に、国選弁護人となるべき弁護士の推薦を依頼する。

実務的には、国選弁護配点日に弁護士会に行くと、裁判所から国選弁護人の推薦依頼があった事件が並んでいる。集まった弁護士が「この事件、私が担当します」と弁護士会の職員に申し出て、弁護士会が「この事件には、この弁護士を推薦します」という書面を発行する。

次が第二段階で、その書面を持って裁判所に行くと、裁判所は丸呑みして、その弁護士を国選弁護人に選任して「国選弁護人選任命令」を交付する。

高杉弁護士独白の後半部分がデタラメであること。

実務だけ見ていると、弁護士会で事件を選び、職員に申し出て書面を貰った段階で、国選弁護人になったつもりになることも、なきにしもあらず。

実際、その書面だけ貰って、裁判所に行くのを失念し、国選弁護人選任命令の交付を受けない(忘れる)弁護士がいる。普通なら「あ、忘れてた」と次の日に受け取りに行き問題にならない。が、完全に失念してしまうと、裁判所から弁護士会に「この事件の国選弁護人の推薦がまだないのだが、どうなっているか」と問い合わせが来る。弁護士会としては、すでに弁護士を決めて推薦書類を渡しているので、既済案件になっている。あらまあ。ということで、書類を渡した弁護士に電話をかけて質問する。「あ、忘れてました」という弁護士は、まだ、良い方で、「弁護士会で選任して貰いましたけど。なにか問題でも?」という弁護士も、少ないながら居るのである。

高杉弁護士の独白は、その類いだ。

ドラマでは、高杉弁護士はそのまま裁判所に行き、国選弁護人選任命令の交付を受けたからOK牧場だ。(そのために、わざわざ事務員を裁判所に同行させたのは無意味であるが)

 

高杉弁護士の独白では、刑事訴訟法36・37・38条を引用していた。

平成一六年五月二八日法律第六二号による刑事訴訟法の大改正により、刑事訴訟法第36条から第38条には、沢山の枝番がついて条文数が大幅に増加したが、それ以前には、36・37・38の3箇条しかなかった。

第三十六条 被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。但し、被告人以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。 
第三十七条 左の場合に被告人に弁護人がないときは、裁判所は、職権で弁護人を附することができる。
一~三 略 
 被告人が心神喪失者又は心神耗弱者である疑があるとき。
 略
第三十八条 この法律の規定に基づいて裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付すべき弁護人は、弁護士の中からこれを選任しなければならない。
 前項の規定により選任された弁護人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。
第38条の引用は明らかな間違い。高杉弁護士の独白は、国選弁護人の選任手続の説明だ。第38条は、国選弁護人は弁護士に限ると、報酬の規定であって、選任手続とは無関係だ。
さらに、第37条は、滅多に適用されない例外規定なので、一般視聴者に説明するだけなら、第36条ひとつだけにしておくべきだった。
ドラマに戻る。
国選弁護人選任命令を貰い、国選弁護人となった高杉弁護士は、被告人に会う前に担当検事を訪ねる。

検事:被害者の車と被告人のバイクが接触しそうになり、それが原因で口論となり、バイクの男が乱暴で残虐性があって、傷を負わせたまま放置したために被害者が死に至ったわけでして、傷害致死未必の故意か多少見解の分かれるとことですが証拠も明白、被告人も素直に自白してますから、ま、問題ないんじゃ無いですか。

高杉弁護士:相づちを打ちながら検事の説明を聞き、そのまま帰る。その後、被告人との接見に向かう。

 

若干の説明を加えると「傷害致死未必の故意か」の意味が一般の方々にはチンプンカンプンであろう。

被告人が殺傷能力のある鉄パイプで被害者を殴って、結果として、被害者は死亡した。

被告人に殺意があれば、殺人事件である。

被告人に殺意は無く、怪我をさせるだけのつもりだったら傷害致死である。

ふたつの罪は、被告人の意識だけで区別される。

未必の故意」というのは、被告人が被害者を鉄パイプで殴ったとき、「殺してやる!」とまでは思っていないが、「死ぬかも知れないな。ま、死んじゃってもいいや」と思っていた心理状態を言う。これは「殺意」と認定される。つまり、この事件は殺人事件になる。

被告人が「死ぬかも知れない?まさか。殺すつもりは無いよ。死んじゃ困るよ」と思っていたら「殺意」はなく、傷害致死事件になる。

その被告人の心理状態が微妙な事件ですよ。と検事は言っているわけだ。微妙なのだから、検事は強気に出て、本件を殺人罪で起訴する可能性もあった。ところが、検事が半歩譲って、軽い方の傷害致死で起訴した。だから弁護人としても文句ないでしょ(殺人で起訴したら、争うでしょうけど)。という長~い会話が、一瞬の内に検事と弁護士の2人の専門家の間で交わされていたのだ。ドラマでは、その説明が不十分だったと言えよう。

 

高杉弁護士(独白)私はまず被告人に会うことにしたんです。公判で弁護する人物の人柄を知っておこうと思ったからです。

 

この時点で、高杉弁護士は、まだ裁判記録の閲覧も謄写もしていない様子だ。つまり、どんな証拠があるか知らない。これは良いことだと思う。

修習生のとき、刑弁教官に教わったことで、覚えているのは2つだけ。

① 記録を読む前に被告人に会って事実を聞け。記録には有罪の証拠しかないから、先に読んで変な先入観をもってはならない。

② なにかを取り下げるときには、取下書は依頼者本人に署名して貰え。

あの刑弁教官にしては、いいことを言ったと思う。2つだけだけど。

 

①の記録を読む前に被告人の言葉を聞け。は、実際には難しい課題である。

被告人に会うには、警察署または拘置所に行かなければならない。時間がかかる。その前に、少しでも事件の情報を得ておき、折角の機会だから、被告人になるべく沢山の質問をしたい。これは無理からぬ欲求だ。

記録を読まずに被告人に会うと、まず、被告人の生の声を聞く。それから、記録を読む。被告人の言葉と記録に書かれていることには、矛盾があることが多い。あるいは、記録にあるのに被告人が語らなかったことがある。それらを確かめるために、また、接見に行かなければならない。二度手間だ。だったら、先に記録を読んでいた方が合理的では無いか。

しかし、ボクは刑弁教官の残してくれた(2つしか無い)大切な言葉だから実践してきた。二度手間になったって良いじゃないか。

刑事弁護の基本は、1に接見、2に接見、3、4が接見、5が接見だ。合間に、記録を読んだり、関係者に事情を聞いたり、現場を見に行ったり、やるべきことは沢山あるが、とにかく大切なのは、被告人から事実を正確に聞き出すこと。被告人が言う事実が、他の証拠と一致していれば良いが、矛盾があったら、なぜ矛盾しているのか、徹底的に追及しなければならない。それも、被告人と接見をして、被告人と意見交換することが基本である。接見と厭う人は立派な刑事弁護人にはなれないと覚悟した方が良いだろう。そして、数多く会うことで、被告人との信頼関係も濃密になっていく。

 

高杉弁護士は、記録は読まなかったけど、担当検事に会って、強い先入観を植え付けられてしまったよ。

被告人から事実も聞いていない。記録も読んでいない。つまり事件について、起訴状以外の情報を何も持っていない。そんな純真無垢な赤ちゃん状態で検事に会って何をするつもりだったのだろう。洗脳されるだけじゃ無いか。百害あって一利なし。とはこのことを言う。

独白で「まず被告人に会う」と言っているが、先に検事に会っているでは無いか。全然「まず」ではない。

 

そして、被告人に会う目的が「人柄を知るため」と来た。裁判において、被告人の人柄が無意味だとは言わない。しかし、重要性は低い。

法廷で「裁判官、この人は本当は良い人なんですよ。そんな悪いことするはずがないんです。無実なんです。信じて下さいよ」と言っても、裁判官は無視するだけだろう。

 

次に、接見室に場面を移そう。

弁護人と被告人の初対面だ。弁護人が被告人の名前を聞き人違で無いことを確認し、弁護人の自己紹介から始まった。

弁護士。と聞いて若干驚いた被告人。それダメー!

留置係の人が面会人だ。と呼びに来るときに、相手が弁護士であることは伝えていまーす。

国選といいましてね、費用のことは心配ありません。それは裁判所が払いますから。
この言葉も不正確なのだが、今日は踏み込まない。興味があったら、勉強しておいてくれたまい。

人柄を知りたい。と独白しておきながら、人柄については何も訊ねず(人柄って本人に尋ねても分からないか。第三者から評判を聞くか、本人を観察するか)、事件のことを聞き始めた弁護人。

まだ記録を読んでいないから、事件について何も知らないはず。それなのに、かなり具体的に聞いている。検察官から洗脳された影響だろう。

弁護人:あなた、被害者の春田敏和さんとは、本当に面識が無かったんですか。

被告人:ありません。

弁護人:駐車場の隅に置いてあった鉄パイプで殴ったとありますが、ただの喧嘩にしてはかなり乱暴です。怪我では済まないと考えなかったんですか。

被告人:オレのバイクを蹴飛ばしたり、突き飛ばされたりしたんで、カーッとなって。

弁護人:血を流した被害者を、そのまま放置して、その場を離れたんですね。救急車を呼んだら助かったかもしれません。

被告人:すいません。

弁護人:自首をしたのは誰かと相談したのですか。

被告人:自分で決めました。・・・略

 

会話、成立しているじゃ無いか。

検察官も「被告人も素直に自白してますから」と言ってたし、法廷でも、公訴事実に対して「ありません」と自白している。

完全黙秘って、看板に偽りありだぜ。

訴えてやる。

(途中省略したが、弁護士が警察に行ったときも、自白したと刑事が言っていた)

 

被告人には、恋人がいた。

恋人とデート中に、携帯電話が鳴り、被告人は、突然彼女に別れを告げ、立ち去っていった。向かった先は警察署で、自首したのであった。

植木等がテレビで人権派弁護士としてインタビューに答えていた。それを偶然に見た恋人。匿名で植木等に電話をかけ、助けて下さい。あの人は無実です。と懇願する。

あの人って誰です。あー、あの人ですか。あの人なら心配要りませんよ。立派な弁護人が就いていますからね。

事件がどう推移しているのか、何も知らないのに、大丈夫と太鼓判を押す。さすが日本一の無責任男である。

 

法律事務所内で、国選弁護事件のコピー代が話題になった。これを肴に2晩くらい酒を酌み交わせるのだが、今日は、無視して次に行こう。

 

高杉弁護士が走り回って調査したところ、被告人と被害者に面識があったこと、被害者は被告人の恩人を自死に追い込んだ悪人であること、などが分かってきた。

しかし、証拠が揃わないし、ストーリーも固まらない。

困った高杉弁護士は裁判の延期を申し入れ、なんとか成功する。

 

裁判長は、たまたま会った植木等に、高杉弁護士から裁判の延期を申し出られて困っている。彼の狙いは何でしょう。と聞く。

植木等は、恐らく被告人の無罪でしょう。と答える。

何でも見抜く千里眼か。さすが人権派弁護士会長。事件の詳細を知らないのに、高杉弁護士が無罪を争うと予言してしまったよ。さすが日本一の無責任男である。

 

拘置所にいる被告人に、高杉弁護士が鰻を差し入れ、被告人が美味しく食べたらいいが、拘置所には、決まった出入り業者から決まった品物しか差し入れできない。
食べ物の場合、毒が入っているかも知れない。中に、脱獄用の鉄やすりが入っているかも知れない。

京都拘置所の扱いは知らないが、おそらく、鰻はむりではなかろうか。

ちなみに、ドラマでは、滋賀県の事件であるが、被告人は京都拘置所に勾留されている。滋賀県には拘置所がなく、彦根拘置支所はあるが、大津からは遠隔地であり、京都拘置所の方が近距離になるからであろうか。
しかし、大津には滋賀刑務所があり、刑務所内の拘置所区画には、大津地裁での裁判を控える被告らを収容しているので、わざわざ京都拘置所を使うのは間違いである。

 

様々なドラマが展開され、結局のところ、法廷で明らかにされた事件の真相は、こうだった。

被告人は、少年時代に悪さをして少年院に入っていたことがある。

少年院を出た被告人の面倒を見たのが保護司で、その人の会社で雇用して貰った、可愛がって貰った。その人の息子とは兄弟のように育てられた。

人のいい社長さんであった。

そこにつけ込んで、社長を騙した悪人2人組がいた。

一人は、30年来の社長の取引先だが、借金で苦しんでいた。

なんとしても一億円が必要だと、もう一人の悪人(今回の被害者、春田)から金を借りることにして、社長に頼み込んで保証人になって貰った。

そして、計画通り、金を借りた会社は倒産。そこの社長は夜逃げ。

保護司の社長は、一億円の保証人となって春田から追い込みを受ける。

自殺しろ、保険金が下りるだろう。と迫られ、保護司社長は夫婦で崖かが海に飛び込んで自殺した。

保護司の息子と、被告人は、悪人2人を恨んでいた。

春田は、保険金が下りただろう、金を払え。と保護司の息子を呼び出した。

口論となり、春田が鉄パイプを持ちだし殴りかかってきたところ、もみ合いになって、息子が鉄パイプを奪って振り回したら、春田の頭に当たって、春田は死んでしまった。

大変なことになった。と息子は、被告人に電話をした。

被告人は、恋人と別れ、事件現場に行き、身代わり犯人になることを申し出る。

息子には妻も子もあり守るべき家庭があるが、自分は独り身だからと。

そして、事件を自分が起こしたように現場の証拠工作をし、口裏合わせを十分におこなってから、警察に自首をした。

 

被告人は、傷害致死では無く、犯人隠避と証拠隠滅で、懲役2年、執行猶予3年。

訴因変更が認められたのかなあ。無理が無いか???

息子は、起訴された。正当防衛は認められなかったらしい。

起訴罪名は不明だが、おそらくは傷害致死

判決は、懲役3年、執行猶予5年。この事件も高杉弁護士が弁護を担当した。

 

生き残った方の悪人も捕まり、相応の処罰を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

公訴事実のモデル案を掲載しておこう。 

 

公訴事実。

 被告人は、平成15年7月6日午後10時20分頃、県道〇〇号線を東から西へバイクで走行中、大津市浜大津5の4春田ビルの北側地点で同ビルの駐車場から道路に発進してきた同ビルのオーナー春田敏和(51年)運転の乗用車に接触しそうとなったためバイクと共に転倒させられ、その事故を原因として同人と言い争う内に喧嘩となり、同駐車場の隅に置いてあった工事用の長さ約50センチメートルの鉄パイプで同人の頭部等を数回殴打し、頭部挫傷および頸椎骨折の傷害を与え、翌平成15年7月7日午前1時38分頃、大津市春日井町二丁目3番所在の大津北市民病院において、前記頭部挫傷に基づく硬膜下血腫による失血により同人を死に至らしめたものである。

 

ポイント

① 公訴事実は「被告人は」で始まる、被告人を主語とする1文で構成しなければならない。という厳しい掟がある。

 原文には「被告人は」が二度繰り返されており、主語が2つの2文になっている。これダメ。

 仮に、二度目の「被告人は」を記載する必然性があったとしても、「喧嘩となり、」「同駐車場の隅」の間である。文法的に誤り。

② 接触事故の場所特定が不十分である。

 原文では、大津市浜大津5の4春田ビルの北側道路とあるが、これはバイクで走行していた道路を特定するものである。接触事故が発生した地点を示すものではない。

 原文には、接触事故の現場を特定する文言はない。ヒントとして、同ビルの駐車場から道路に発進してきたという文言があり、そこで接触事故が起きたと読み込むことになるが、積極的に現場特定はしていない。

 さらに、春田ビルと駐車場が至近距離にあるか否か判然とせず、特定方法として不十分である。

③ 接触事故と言い争いの中間が省略されすぎている。

 なぜ、言い争いになったのか、分かるように記載すべきである。上記では、ドラマの再現場面から補充しておいた。

④ 凶器の鉄パイプの形状が想像できない。
 最低限、長さを記載すべきであろう。必要があれば直径も。重量などがよいかもしれない。人を殺傷する能力がある鉄パイプであることが分かるように記載する。

⑤ 被告人が被害者に加えた暴行行為が曖昧すぎる。

 道具は鉄パイプとわかるが、殴打した場所、回数、強さなど、書き込む必要がある。

⑥ 不要な事実記載がある。

 本件では、被告人が逃走したこと、被害者を放置したこと、救急車で搬送されたことは、余事記載(不必要)である。

⑦ 被害者の死亡時刻が矛盾している。

 午後10時20分に事件が発生し、同日1時に(午前でも、午後でも)被害者が死亡することはあり得ない。常識的に考えて、真夜中を回って翌日の午前1時過ぎであろう。このミスは致命傷だ。

これを直さなかったのは、成田茂弁護士先生様は、法律監修をしていないのと同じだ。

⑧ 死因の特定ができていない。

 死因とは、とても難しい概念である(脳死という概念ができて、死自体が定義困難なことは、横に置くとしても)。

 例えば、人の死は、他殺、自殺、事故死、病死などに分けられるが、刑事裁判における死因は、これらとは無関係である。

 次に、刺殺、毒殺、絞殺なども、ここでは不適切。

 本件では「鉄パイプで殴る」→「頭部挫傷および頸椎骨折」→「死亡」という順を踏んでいるが、「頭部挫傷および頸椎骨折」が被害者の体内で何を引き起こし、被害者を死亡させたのか。が具体的に示されなければならない。

 例えば「頭部挫傷」→「出血多量」→「失血死」、または「頸椎骨折」→「呼吸困難」→「窒息死」などである。原文は、漫然と2つの死因を提示しているが、実際はどちらか片方に特定できるはずである。死亡鑑定書を見て、正しく記載しなければならない。

 ドラマでは、残念ながら、その詳細は明らかにされなかった。とりあえず、失血死説を採用し、上記モデル案を作ってみた。

 

 まあ、ざっと数えても、こんなにあるぞ。困ったものである。

 

 さらに困ったのは、公訴事実の朗読を聞きながら、検察官の顔を睨み付けつつ、一生懸命メモを取っていた弁護人である。公訴事実が書かれた起訴状は、弁護人も持っている。検察官は、それを一字一句そのまま読み上げるだけである。なにを、必至にメモしていたのだろう???

 もしかして公訴事実を読み上げる検察官の似顔絵でも描いていたのかな。それはそれで、不謹慎だ。