#白日の鴉 刑事ドラマの法律監修だよ
ブログ主が録画して見るTV番組を俯瞰すると
遠藤憲一が出演しているものが多い。
どうやら、主は、エンケンのファンらしい。
ということで
今日は、エンケン主演の刑事ドラマの法律監修を行う。
検体は
ドラマスペシャル 白日の鴉(カラス)
2020年5月10日テレビ朝日放送だ。
当然ながら、再放送を見て、これを書いている。
原作は『小説宝石』に2014年6月号から2015年9月号まで連載された。福澤徹三の小説。
ドラマの時代設定は、2017年10月~。
中途半端だが、法律監修的には、なんらの違法はない。
エンケンは、名古屋本社から東京に転勤して1年のMR。単身赴任だ。
MRとは、ざっくり言うと製薬会社の社員で、病院を回って医者に自社製品をアピールして購入して貰うセールスマンだ。
(ドラマ「DOCTORS~最強の医師~」(ランちゃん主演)を見たことがある人には、沢村一樹がときどきスパイ活動を依頼する製薬会社の滝沢沙織が、同じMRだから理解しやすいだろう。但し、スパイが専門職じゃないから、誤解しないように。)
エンケンがとある病院にセールスに行っていたとき、事務長から声がかかり、「院長が会いたがっている。7時半にどこそこの料亭に来てほしい。院長は時間に厳格な人だから遅れないように」と言われる。セールスマンとしては、断れないどころか、嬉しい誘いだ。
エンケンは、料亭に行く電車を降りたところで、若い女性から「この人、痴漢です」と腕をつかまれ、他の男性からも「自分も見ていた」と言われる。エンケンは院長との約束を守るために、無実を主張し料亭に急ごうとするが、警察官に取り囲まれ、迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕される。輪っぱをかけたのは、新人警察官の交番勤務・伊藤淳史(チビノリダー)。初めての逮捕。初めての手柄だった。
警察に連行され、取調べを受けるエンケン。
何もやってないと主張し「電話させて貰えませんか。(院長に)謝っておかないと」と頼む。
取調べ刑事「無理だよ。しばらくは弁護士以外には連絡できない決まりでね」
エンケン「ちょっと待って下さい。妻にもですか」
刑事「奥さんを心配させないためにも、罪を認めたらどうですか。そうすれば、罰金払って、略式起訴で済みますよ」
エンケン「やってもいないのに、やったなんて認められないでしょ。調べれば分かるはずです」
弁護士以外には電話もできない。妻にも電話もできない。
だれが、そんなこと決めたんだ?
刑事訴訟法のどこを読んでも、そんなことは書かれていないぞ。
「刑事弁護に強い」を謳い文句にしている某法律事務所のHPをお借りしてみよう。
このHPによると、警察の対応次第では、家族が面会できる。ということは、禁止する法律がない。そんな決まりはない。ということではないのか?
はい、法律監修により、ここのシナリオは違法です。
(しかし、この法律事務所のHPには、間違いも多いので鵜呑みにしてはならない。)
さらに、刑事は、自白すれば、奥さんに知られることもなく、早く釈放される。と自白に利益誘導を行った。
この取調べ方法も違法だ。
違法ではあるが、実際には、氷山の一角で、日常茶飯事的に行われていると推測している。
翌日、エンケンの上司が面会にやってくる。
エンケン「なにもやってないんですよ」
上司「実名報道された。君がやっていようが、やって居まいが、会社は大きな不利益を受ける。すぐに辞表を出してくれないか」
ここに重大な疑問が2つ浮上した。
❶奥さんに電話もできない。弁護士以外には連絡できない決まりだ。と言っておきながら、会社の上司との面会は認められるのか?矛盾じゃないか。
❷エンケンが、痴漢をしていようが、していまいが関係なく、辞表を提出しろ。というのは労働法違反だろう。
エンケンは、翌日、送検され、検事の弁解録取が行われる。警察から送られた記録(書類)を一瞥した検事が言った。
「あなたの言い分を信じるわけにはいかないですね。いいすか、痴漢ってのはね、被害者の証言だけで有罪になるですよ。まして目撃者までいたら。」
エンケン「私はやってません」と当時の状況を説明する。
検事「これほど悪質なケースは珍しいね、まったく反省の色が見えない。はい、10日間の勾留請求をしま~す」「あなたのこと、家族のこと。もっとよく考えなさいよ」
夜、女友達と食事をし、カラオケに誘ったが断られた伊藤淳史が繁華街を歩いていると、痴漢被害者の女性がキャバクラから出てくるところを目撃する。警察では女子大生と言っていたが、キャバ嬢だったのだ。
伊藤淳史がキャバ嬢の後を付けていくと、馴染みの店に入っていく(バー?スナック?キャバクラやホストクラブではない。バーテンがいる店)。そこの店長は、痴漢事件の目撃者だった。
警察には、二人は初対面だったと話していたが、半年以上前からの知り合いだったのだ。
疑念を抱くチビノリダー。
しかし、一度逮捕し、送検までした被疑者が白(えん罪)であることを、逮捕した警察官自身が暴くことがあったら、警察の威信に関わることだ。
警察組織に対する反逆罪だ。どうするチビノリダー?
当番弁護士が来た。なぜ来たか。
ほぼ100%、エンケンが当番弁護士を呼んだからだ。
(皆さんは、翌日を待たないで、逮捕されたら、即日、当番弁護士を呼んで下さいね)
「当番弁護士」って何だ?知らない人も居るだろう。いずれ、このブログでも解説を書くつもりだが、今日のところは、wiki先生に聞いて見るなり、自分で調べてくれ。ゴメン。
当番弁護士は自己紹介をした後、エンケンにこう告げる。
「まず最初に言っておきますが、無罪は難しいですね。起訴されれば、99.9%有罪となるのが、この国の裁判ですから」
エンケン「100%無実だとしてもですか?」
当番弁護士「100%無実だとしても、やってないという証拠がなければ、話になりませんよ」
起訴されれば、99.9%有罪となる。というのは、司法統計上、間違っていない。小数点以下は若干異なるが、大筋の説明としては正しい。このことは、松本潤主演ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」を見た人なら、納得頂けるだろう。(但し、このドラマにも、言いたいことは沢山ある)しかしながら、当番弁護士が、被疑者の話を何も聞かず、いきなり、いの一番で言うべき言葉ではない。
実際に、こんなことを言ったら、弁護士会の刑事弁護委員会から大目玉を食らうだろうし、下手をすると懲戒処分にもなりかねない。
みんな大好き弁護士職務基本規程を見てみよう。
側聞するに、この規程は改訂作業が行われているらしいが、平成16年版を使わせて頂く。
(正当な利益の実現)
第二十一条
弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。
(依頼者の意思の尊重)
第二十二条
弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。
2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努める。
弁護士は、依頼者の意思を尊重しなければならないから、まず、依頼者の意思を確認しなければならない。意思を知らなければ、尊重の方法が分からないではないか。
刑事事件であれば、無罪を争うのか、有罪前提で軽い処分を望むのか。それによって、弁護方針は、全く異なってくる。それを聞く前に「まず最初に言っておきますが、無罪は難しいですね。」などと発言するのは言語道断、横断歩道だ。
エンケンが、何もやってない、無実だ。と訴えても、聞く耳を持たず、「罪を認めて改悛の情を見せれば、罪も軽くなるんですけどね」と突き放す当番弁護士。
全く依頼者の意思を尊重していない。
無罪を主張する被疑者に対し、罪を認めるよう説得するのは、刑事弁護において、最悪な行為とされ、懲戒は免れない。このシナリオを書いた脚本家もまた、許されるものではない。
実際の現場では、「自分はやっていないのだけれど、刑事さんが(又は、検事さんが)罪を認めれば、情状酌量の余地もある、早く出ることもできる。と言うのですが、どうしたら良いでしょうか」と相談されることがある。かなりの件数である。
エンケンの場合、実名報道されてしまったから、会社にバレて辞表提出を求められている。家族も知ることになるだろう。
他方、会社にも家族にもバレていない場合など、2~3日警察にお泊まりして会社を欠勤しても、風邪を引いていた。で誤魔化せるかも知れない。10日も勾留されたら、そう簡単に誤魔化せるものではなくなる。数日後に、大切なプレゼンが待っている会社員がいるかもしれない。
そういう事情がなくても、警察の取調べは厳しく、早く打ち切りになってほしい。留置場の夜は怖く、早く家に帰りたい。と思うのも自然な感情だ。
そういう人が、無実なのだけれども、自白して、早く自由になりたい。と希望を述べたとき、弁護人として、どう対処するか。重く、深い問題である。
さあ、この重く、深い問題に頭を悩ませて貰おうか。
その間、ブログ主はしばしの休憩を頂戴することにする。