赤いブログ 弁護士を呼んでくれ

刑事弁護について、研究するブログです。

◆固定板◆弁護士を呼んでくれ

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ヤフーブログで「赤いブログ」として、刑事弁護を研究してきました。

ヤフーでは、お陰様で、延べ訪問者数14万人を超えました。

お友達が3人しか居ない(内、ひとりはブログ主の分身)の割には、健闘した数字だと思います。

ヤフーがブログサービスを止めるというので、引っ越しを検討し、とりあえずアメブロに引っ越しました(記事を全部、一括で移動)。

でも、はてなブログの方が使い勝手が良いかな。と思って、再引っ越しを検討中です。ただ、仲が悪いのか、アメブロからはてなブログへの引っ越し(一括移動)するツールが用意されていません。

時間の経過で陳腐化した記事を捨てる、ブラッシュアップする、など考えながら、手作業で少しずつ引っ越しする予定です。
今は、アメブロで全部読めますので、そちらを参照して下さい。
→ 赤いブログ



 

#松本清張 #一年半待て #法廷監修

「一年半待て」

この小説は、松本清張の名作なのか?

ヒロインを替えて、何度もドラマ化されている。
(僕は、何度もドラマ化するほどの価値のない陳腐なストーリーと思っている)

ぼくが最初に見たのは、もちろん田中好子さん主演のものであった。

 

今日の題材は、2016年4月放送、菊川怜主演である。

弁護士役の菊川怜が、パソコンを操作する場面もある。

他の役者だと、ちゃんとキーボード打ってるかな。

とか無用な心配をするが、

この人は才女だから大丈夫だろう。

 

それはさておき

時は現代であり、登場人物はスマホを使うし

裁判は、裁判員裁判で行われている。

 

繰り返す。裁判員裁判である。

 

エンドロールを先に暴露すると

このドラマには

【法律監修】と【法廷監修】の2人がいる。

【法律監修】は、魚谷隆英氏

【法廷監修】は、

    弁護士法人アディーレ法律事務所の岩沙好幸氏

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エンドロール

ググってみると・・・

 

魚谷氏は弁護士で、ご自身のHPでの自己申告によると
得意分野、取扱分野に刑事弁護の記載は無く
経歴欄に、新規登録弁護士国選弁護研修指導担当(2008年~2014年)
との記載がある。

7年間も研修講師をしていたなんて、凄い人だ。と思わないで下さい。
新人弁護士の指導担当など、刑事弁護委員会のメンバーであれば、3年目くらいから可能な簡単なお仕事です。

テレビ局は、なぜ、こういう人を、刑事ドラマの法律監修に使うのでしょうか。

(まあ、いいや)

 


一方、岩沙好幸氏も弁護士でアリ、

メディア露出は非常に多く
「そっち」方面では、大変にご活躍のご様子である。
得意分野は、労働事件
主に扱っている事件は
労働案件
企業法務案件
不動産案件
離婚案件
国際法関連  ということで、

刑事弁護とは、ほぼ無縁の弁護士さんとお見受け致す。

 

このお二人の厳密な役割分担は分からないが

法廷シーンは、【法廷監修】岩沙弁護士の担当だろう。

法廷内での所作とか

法廷の構造とか、法廷の構造とか、法廷の構造とか、法廷の構造とか・・・・

 

本物の裁判員法廷は、裁判長の後から見るとこんな感じ。

左右の壁に、大きなモニターがあり

裁判官、裁判員、検察官、弁護人、被告人、傍聴人

だれからも、よく見える配置になっている。

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本物の裁判員法廷(の再現?)

 

 

では、岩沙弁護士が法廷監修したドラマの法廷を、

両側のモニタに注目して、じっくりと観察して頂きたい。

 

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ドラマの裁判員法廷

 

刑事裁判は、99.9%有罪だ。とよく言われるが

岩沙弁護士は、99.9%、裁判員裁判を経験したことが無い。

繰り返しになるが、

テレビ局は、なぜ、こういう人を、刑事ドラマの法律監修に使うのでしょうか。

そして、その弁護士は、よく臆面もなく引き受けるのでしょうか。

引き受けるのは自由ですが、仕事をする前に調査をしないのでしょうか。

 

仕事をする前に調査しない弁護士。

実際の事件を依頼するのには勇気が要りますね。

高野隆弁護士の「破門」発言 と私見

今、SNSで話題沸騰しているのが

高野隆弁護士の「破門」発言です。

高野 隆 - 刑事弁護というのは、「私は大手法律事務所勤務予定ですが、修習を経て刑事弁護に興味を持ち、今後もできるだけ取り組みたいと思... | Facebook

 

高野隆弁護士を知らない人も居るかと思いますが

刑事弁護実務の世界では、日本で5本の指に入る実力者であり

また、外国の文献などにも精通し、数少ない学者肌の弁護士でもあります。

 

高野弁護士の「破門」発言は、過激とも言えるものであり

SNSで賛否両論、というか批判の方が優勢かと僕には感じます。

ただ、高野弁護士を個人的に知っている身としては、高野先生の理念も理解できないではありません。

 

高野弁護士は、現在の我が国の刑事弁護のあり方に、危機感を持っています。
ぼくも同じです。
ただ、アプローチの方法は沢山ある中、高野先生は有能な実務家ではありますが、政治家としては一流とは言えません。「破門」発言は、そんなとこに端を発しているのかも知れません。

 

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コメント1

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#アリバイ崩し承ります

主人公は浜辺美波

祖父(森本レオ)から、アリバイ崩しを徹底的にたたき込まれ、祖父から受け継いだ時計店を経営している。

バディは、安田顕

那須野県警察本部捜査一課管理官であるが、アリバイ崩しの能力はイマイチ。

それなのに、県内では、鉄壁アリバイ事件ばかりが発生し、1件5000円のアルバイト料で、浜辺美波の力を借りて事件を次々と解決する。警察内部では、アリバイ崩しの名人と呼ばれるようになる。

 

さて、これだけの情報で、法律監修だ。

 

安田顕は「那須野県警察本部捜査一課管理官」

「管理官」は「捜査一課」において「課長」に次ぐナンバー2の地位になる。

「警察署の捜査一課」ではなく「県警本部の捜査一課」そのナンバー2というのは、かなり偉い。

 

そんな偉い人が、捜査の現場の最前線で捜査することなど、ありえない。

県警本部の大きな部屋に、大きなデスクを構えて、ドンと座っているのがお仕事だ。

 

じゃ、どの位、偉いのか?

 

警察官には、厳密な階級制度があってピラミッド構造になっている。

階級は9種類ある。上位から

①警視総監

警視監

③警視長(警視庁にあらず)

警視正

⑤警視

⑥警部

⑦警部補

⑧巡査部長

⑨巡査

 

人数構成で見ると、下から

⑨巡査   約30%

⑧巡査部長 約30%

⑦警部補  約30%

⑥警部    約8%

①~⑤は、合計して、たったの約2%しか居ない超エリート達だ。

①警視総監に至っては、日本に只一人しか居ない警察組織のトップだ。
(夕べ、アメリカ映画を見ていたら、「〇〇警部補か?〇〇巡査部長だ!」と挨拶を交わす場面があった。アメリカでは、警部補より、巡査部長の方が偉いらしい。それとも、翻訳ミスか?)

 

 

県警本部の捜査一課管理官に相応しい階級は「警視」だ。「警視」といえば、上から⑤番目。

全国に2%しかいないエリートだ。

現場で捜査しないことが理解できるであろう。

 

皆さんがよく知っている「太陽にほえろ!」のボス(石原裕次郎)を例にとって説明しよう。

ボスも現場で仕事はしない。窓のブラインドから、新宿の治安を見守るくらいしかしない。

ボスの役職は「七曲がり署刑事一係係長」これは有名だ。新宿にある「七曲がり署」という「警察署」の刑事一係係長は、そんなに偉くない。

部下はせいぜい5~6人程度だ(すぐに殉職してしまうのは、係長の責任だろうが、なぜか処分を受けない)

ところで、ボスの階級は「警部」という設定だ。これはフィクションであり、石原裕次郎ほどの大物俳優を、銭形警部より下の階級に設定できなかったのであろう。小さな警察署の係長に、全警察官の8%しかいない警部を使うなんてもったいない。

ノンフィクションで行くならば、上から⑧番目の巡査部長が妥当な線だ。(大きめの警察署なら⑦番目の警部補もあり得る)

 

警察署には、刑事一係(殺人課)、刑事2係(経済犯)、刑事4係(暴力団対策)など、沢山の係があり、それら全てが「捜査」を行う実働部隊だ。

県警本部の刑事課は、県内全ての警察署の、全ての刑事係を統括するのだから、配下の人数は半端ない。七曲がり署のボスとは、桁が2つも3つも違う。だから「警視」様くらいの階級が必要となるのだ。

 

 

うーーーん。落ちがない。

 

 

#白日の鴉 刑事ドラマの法律監修だよ

ブログ主が録画して見るTV番組を俯瞰すると

遠藤憲一が出演しているものが多い。

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湯けむりスナイパー」より

どうやら、主は、エンケンのファンらしい

 

ということで

今日は、エンケン主演の刑事ドラマの法律監修を行う。

検体は

ドラマスペシャル 白日の鴉(カラス)

2020年5月10日テレビ朝日放送だ。

当然ながら、再放送を見て、これを書いている。

原作は小説宝石』に2014年6月号から2015年9月号まで連載された。福澤徹三の小説。

ドラマの時代設定は、2017年10月~。

中途半端だが、法律監修的には、なんらの違法はない。

 

 

 

エンケンは、名古屋本社から東京に転勤して1年のMR。単身赴任だ。

MRとは、ざっくり言うと製薬会社の社員で、病院を回って医者に自社製品をアピールして購入して貰うセールスマンだ。

(ドラマ「DOCTORS~最強の医師~」(ランちゃん主演)を見たことがある人には、沢村一樹がときどきスパイ活動を依頼する製薬会社の滝沢沙織が、同じMRだから理解しやすいだろう。但し、スパイが専門職じゃないから、誤解しないように。)

 

エンケンがとある病院にセールスに行っていたとき、事務長から声がかかり、「院長が会いたがっている。7時半にどこそこの料亭に来てほしい。院長は時間に厳格な人だから遅れないように」と言われる。セールスマンとしては、断れないどころか、嬉しい誘いだ。

エンケンは、料亭に行く電車を降りたところで、若い女性から「この人、痴漢です」と腕をつかまれ、他の男性からも「自分も見ていた」と言われる。エンケンは院長との約束を守るために、無実を主張し料亭に急ごうとするが、警察官に取り囲まれ、迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕される。輪っぱをかけたのは、新人警察官の交番勤務・伊藤淳史チビノリダー)。初めての逮捕。初めての手柄だった。

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チビノリダー

警察に連行され、取調べを受けるエンケン

何もやってないと主張し「電話させて貰えませんか。(院長に)謝っておかないと」と頼む。

取調べ刑事「無理だよ。しばらくは弁護士以外には連絡できない決まりでね」

エンケン「ちょっと待って下さい。妻にもですか」

刑事「奥さんを心配させないためにも、罪を認めたらどうですか。そうすれば、罰金払って、略式起訴で済みますよ」

エンケン「やってもいないのに、やったなんて認められないでしょ。調べれば分かるはずです」

 

弁護士以外には電話もできない。妻にも電話もできない。

だれが、そんなこと決めたんだ?

刑事訴訟法のどこを読んでも、そんなことは書かれていないぞ。
「刑事弁護に強い」を謳い文句にしている某法律事務所のHPをお借りしてみよう。

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⇑ 逮捕中に家族が会える場合がある。

 

このHPによると、警察の対応次第では、家族が面会できる。ということは、禁止する法律がない。そんな決まりはない。ということではないのか?

はい、法律監修により、ここのシナリオは違法です。
(しかし、この法律事務所のHPには、間違いも多いので鵜呑みにしてはならない。)

さらに、刑事は、自白すれば、奥さんに知られることもなく、早く釈放される。と自白に利益誘導を行った。

この取調べ方法も違法だ。

違法ではあるが、実際には、氷山の一角で、日常茶飯事的に行われていると推測している。

 

翌日、エンケンの上司が面会にやってくる。

エンケン「なにもやってないんですよ」

上司「実名報道された。君がやっていようが、やって居まいが、会社は大きな不利益を受ける。すぐに辞表を出してくれないか」

 

ここに重大な疑問が2つ浮上した。

❶奥さんに電話もできない。弁護士以外には連絡できない決まりだ。と言っておきながら、会社の上司との面会は認められるのか?矛盾じゃないか。

エンケンが、痴漢をしていようが、していまいが関係なく、辞表を提出しろ。というのは労働法違反だろう。

 

エンケンは、翌日、送検され、検事の弁解録取が行われる。警察から送られた記録(書類)を一瞥した検事が言った。

「あなたの言い分を信じるわけにはいかないですね。いいすか、痴漢ってのはね、被害者の証言だけで有罪になるですよ。まして目撃者までいたら。」

エンケン「私はやってません」と当時の状況を説明する。

検事「これほど悪質なケースは珍しいね、まったく反省の色が見えない。はい、10日間の勾留請求をしま~す」「あなたのこと、家族のこと。もっとよく考えなさいよ」

 

夜、女友達と食事をし、カラオケに誘ったが断られた伊藤淳史が繁華街を歩いていると、痴漢被害者の女性がキャバクラから出てくるところを目撃する。警察では女子大生と言っていたが、キャバ嬢だったのだ。

伊藤淳史がキャバ嬢の後を付けていくと、馴染みの店に入っていく(バー?スナック?キャバクラやホストクラブではない。バーテンがいる店)。そこの店長は、痴漢事件の目撃者だった。

警察には、二人は初対面だったと話していたが、半年以上前からの知り合いだったのだ。

疑念を抱くチビノリダー

いいぞチビノリダーエンケンを助けるんだ!

しかし、一度逮捕し、送検までした被疑者が白(えん罪)であることを、逮捕した警察官自身が暴くことがあったら、警察の威信に関わることだ。

警察組織に対する反逆罪だ。どうするチビノリダー

 

当番弁護士が来た。なぜ来たか。

ほぼ100%、エンケンが当番弁護士を呼んだからだ。

(皆さんは、翌日を待たないで、逮捕されたら、即日、当番弁護士を呼んで下さいね)

「当番弁護士」って何だ?知らない人も居るだろう。いずれ、このブログでも解説を書くつもりだが、今日のところは、wiki先生に聞いて見るなり、自分で調べてくれ。ゴメン。

 

当番弁護士は自己紹介をした後、エンケンにこう告げる。

「まず最初に言っておきますが、無罪は難しいですね。起訴されれば、99.9%有罪となるのが、この国の裁判ですから」

エンケン「100%無実だとしてもですか?」

当番弁護士「100%無実だとしても、やってないという証拠がなければ、話になりませんよ」

起訴されれば、99.9%有罪となる。というのは、司法統計上、間違っていない。小数点以下は若干異なるが、大筋の説明としては正しい。このことは、松本潤主演ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」を見た人なら、納得頂けるだろう。(但し、このドラマにも、言いたいことは沢山ある)しかしながら、当番弁護士が、被疑者の話を何も聞かず、いきなり、いの一番で言うべき言葉ではない。

実際に、こんなことを言ったら、弁護士会の刑事弁護委員会から大目玉を食らうだろうし、下手をすると懲戒処分にもなりかねない。

みんな大好き弁護士職務基本規程を見てみよう。

側聞するに、この規程は改訂作業が行われているらしいが、平成16年版を使わせて頂く。

 

(正当な利益の実現)
第二十一条
弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。
(依頼者の意思の尊重)
第二十二条
弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。
2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努める。

 

弁護士は、依頼者の意思を尊重しなければならないから、まず、依頼者の意思を確認しなければならない。意思を知らなければ、尊重の方法が分からないではないか。

刑事事件であれば、無罪を争うのか、有罪前提で軽い処分を望むのか。それによって、弁護方針は、全く異なってくる。それを聞く前に「まず最初に言っておきますが、無罪は難しいですね。」などと発言するのは言語道断、横断歩道だ。

エンケンが、何もやってない、無実だ。と訴えても、聞く耳を持たず、「罪を認めて改悛の情を見せれば、罪も軽くなるんですけどね」と突き放す当番弁護士。

全く依頼者の意思を尊重していない。

無罪を主張する被疑者に対し、罪を認めるよう説得するのは、刑事弁護において、最悪な行為とされ、懲戒は免れない。このシナリオを書いた脚本家もまた、許されるものではない。

実際の現場では、「自分はやっていないのだけれど、刑事さんが(又は、検事さんが)罪を認めれば、情状酌量の余地もある、早く出ることもできる。と言うのですが、どうしたら良いでしょうか」と相談されることがある。かなりの件数である。

エンケンの場合、実名報道されてしまったから、会社にバレて辞表提出を求められている。家族も知ることになるだろう。

他方、会社にも家族にもバレていない場合など、2~3日警察にお泊まりして会社を欠勤しても、風邪を引いていた。で誤魔化せるかも知れない。10日も勾留されたら、そう簡単に誤魔化せるものではなくなる。数日後に、大切なプレゼンが待っている会社員がいるかもしれない。

そういう事情がなくても、警察の取調べは厳しく、早く打ち切りになってほしい。留置場の夜は怖く、早く家に帰りたい。と思うのも自然な感情だ。

そういう人が、無実なのだけれども、自白して、早く自由になりたい。と希望を述べたとき、弁護人として、どう対処するか。重く、深い問題である。

 

 

 

さあ、この重く、深い問題に頭を悩ませて貰おうか。

その間、ブログ主はしばしの休憩を頂戴することにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに刑事ドラマの法律監修法律監修してみようか。
今日の課題は、小泉孝太郎主演の
      魔性の群像 刑事・森崎慎平4
を取り上げてみよう。

もちろん、主演の小泉孝太郎が森崎慎平刑事だ。

 

冒頭のシーン

森崎刑事が逃げる男をねじ伏せ、腕をねじり上げて手錠をかけながら、こう見栄を切る。
いいだまさひこ傷害致死罪で逮捕する」「くそ~!」

なんだ、もう事件解決か?

いや、森崎刑事は、逮捕状を示していないぞ。

逮捕するには、逮捕状を示さなければならないんじゃないのか?

 

そもそも憲法に規定があるだろう。

第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

 

この憲法の規定を受けて、刑事訴訟法はこう規定する。

第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。(但書き省略)

第二百一条 逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。

 

ということは、逮捕状を示さずに逮捕した森崎は刑事訴訟法違反か?

主人公が、ドラマ冒頭から、刑事訴訟法違反を犯しちゃダメでしょう。

 

森崎が刑事訴訟法違反にならない可能性は3つある。

 

ひとつめは比較的簡単で、法学部を出てない読者諸君でも言い当てることが可能だろう。初級編だぞ。

そうだ。この逮捕が現行犯逮捕の場合だ。

刑事訴訟法

第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

これはかなり有名だね。

 

次は中級編。緊急逮捕の場合。

これも知っている人が居るのでは?

第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

 

そして、3つめは上級編だ。わかるかな?

皆さんは聞いたこともないかも知れないが「逮捕状の緊急執行」というのがある。

逮捕状は1通とは限らない。

必要があれば、裁判所は複数通発行してくれる。

刑事訴訟規則

(数通の逮捕状) 
第百四十六条 逮捕状は、請求により、数通を発することができる。

ところが、全ての警察官が逮捕状を持ち歩いて仕事をしているわけではない。

逮捕状は出ている。でも、自分(警察官)は逮捕状を持っていない。そして、目の前に犯人がいる。指をくわえて見逃すしかないのか。

こういうときにも逮捕できるのが「逮捕状の緊急執行」である。

刑事訴訟法

第二百一条 (略)
 第七十三条第三項の規定は、逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。
第七十三条 (略)
 勾引状又は勾留状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、前二項の規定にかかわらず、被告人に対し公訴事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる。但し、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならない。

 

逮捕直後の同僚の会話

いいだ。時効成立まで、あと1日でしたね」

「残念だったわね」

このドラマは、2017年放送なので、当時の法律で検討すれば良いだろう。

森崎刑事は「傷害致死で逮捕する」と叫んでいた。

逮捕の容疑は、傷害致死で間違いない。

傷害致死の法定刑は、3年以上の有期懲役。

最長(長期)は20年だ。

刑法

第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
(懲役)
第十二条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。

公訴時効は刑事訴訟法

第二百五十条 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

 (略)
 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年

ということで、傷害致死の公訴時効は20年だ。

いいだ」が起こしたとされる傷害致死事件は、19年と364日前ということだ。

ということは、初級編=現行犯逮捕は、ありえない。

20年近く経っていると、中級編=緊急逮捕も、現実味が薄い。20年もの間、逮捕状が取れない。そんな証拠が足りない事件が、時効ギリギリに証拠がそろい、逮捕できた。なんて奇跡に近い。しかし、可能性ゼロではない。特にドラマの世界では。

しかし、森崎刑事は、刑事訴訟法第210条の「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。」の「その理由」を告げる手続きを行っていない。緊急逮捕だとしても(時効直前に証拠が揃う奇跡が起こったとしても)刑事訴訟法の手続き違反で違法逮捕だ。

 

となると、上級編=緊急執行か?

緊急執行の場合も「被告人に対し公訴事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて」逮捕しなければならない。

森崎刑事は、「傷害致死容疑で逮捕する」としか言っていない。

公訴事実というのは、簡単に言うと犯罪事実そのものである。犯行日時、場所、被害者などが必須となる。要旨、つまり、かいつまんで告げる場合でも、それらは必要である。森崎刑事は、それらを告げていない。

さらには、令状(逮捕状ね)が発せられていることも告げていない。

緊急執行としても、違法逮捕と言わざるを得ない。

 

筆者としては、なんとか、森崎刑事を守りたかったのだが、まことに残念だ。

主人公が、ドラマの冒頭から、法律違反を犯すとは。残念で仕方がない。

それを見逃したドラマの法律監修者が残念で仕方がない。

 

それ以外にも、実は大きな落とし穴がある。それは、このドラマ特有の問題ではなく、かなり多くの刑事ドラマに共通することなのだが・・・

 

問題がないのは、こういうドラマ。

事件発生→捜査進展→犯人特定→証拠十分→「よし、逮捕状請求だ」→裁判官、逮捕状を出す→逮捕状を持参して犯人逮捕

こういう展開なら問題はない。

かし、今回は、犯人は特定できていた。証拠も揃っていた。ただ犯人の居所が分からない。刑事が執念で時効完成直前に犯人を発見し逮捕。(ドラマでは、そこまで詳細に描かれていないが、同僚の会話から推測される事実関係)

こういう展開だと、問題は複雑になる。

何が?って、逮捕状は、いつ、出されたのか?ってこと。犯人が判明し、証拠も十分。となったら、逮捕状を請求し、犯人逮捕に全力を尽くす。ところが犯人が逃亡して見つからない。逮捕できない。

実は、逮捕状には有効期限というのがある。7日間だ。

7日経っても犯人を逮捕できなかったら、逮捕状は無効になる。森崎刑事以外の刑事が、7日以内の有効な逮捕状を持っている。そういう場合でないと、逮捕状の緊急執行すらできない。その前提がない。ということになる。

可能なのは、緊急逮捕だけだが、「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき」と言えるのかどうか。甚だ疑問に思う。

だって20年も前から犯人が分かっていた事件なんだよ。「急速を要し」なんて言ったら、笑われないかな?

 

 

 

法律監修者は、誰だ?

エンドロールにしっかり出ているぞ。

法律監修
東京東部法律事務所
後藤寛
山添健之

弁護士と明示されてはいないが、まさか、法律事務所のパラリーガルに法律監修を頼むことはないだろうから、弁護士さんだろう。面倒だから確認してない。

確認したい人は、日弁連のひまわりサーチへGO!

弁護士情報・法人情報検索

 

「いいだ事件」は、このドラマの主題ではなかった。

その後に発生した殺人事件が、メインストーリーだった。

だから「いいだ事件」が、その後、どうなったかはドラマに描かれていない。

しかし、ブログ主としては、気になって仕方ない。

気になって、夜も昼間もおちおち寝られない。

地下鉄を地下に入れる方法より悩ましい。

 

何がそんなに気になるのか?だって???

 

公訴時効完成の前日に逮捕したんだよ。

次の日に起訴しないと、公訴時効が完成しちゃうんだよ。

警察も検察も慌てたろうね。

通常事件では、逮捕から勾留請求まで制限時間72時間。それまでに、勾留請求できる準備ができれば良い。

森崎刑事が「いいだ」を逮捕した時間は明るかったから、仮に昼間の12時と仮定したら、警察・検察の持ち時間は、36時間。通常事件の勾留請求までの時間の半分しかない。その時間内に「いいだ」を起訴しなければならないのだ。

裁判所の夜間受付にお世話になるのは確実だろう。

森崎刑事が活躍しているのは東京都内と思われるので、取扱は東京地検だ。東京地検の起訴決裁官は刑事部長だろう。担当検事が起訴状を作成した後、刑事部長の決裁を受けないと、起訴状を裁判所に提出できない。

刑事部長も残業確定だ。

そういう裏話を描いてほしかった。じゃなくて、法律監修の弁護士先生は、ここが気にならなかったのかなあ?
メインストーリーとは無関係の導入部分だ。「時効完成1日前」なんて切羽詰まった日にちに逮捕しなくても、1月前、2月前でもどうでもいい。そこは法律監修者として、日にちをずらした方が良かったのではなかろうか?

 

メインストーリーには、面白い監修箇所がなかったので、省略。

 

では、また、後日、お会いしましょう。

 

 

 

 

*2 2時間サスペンスの法律監修 走る!国選弁護人

まず読者の皆さんに訴えたいのは、このドラマには立派な法律監修が就いている。ということであります。

その法律監修を行ったのは

日比谷共同法律事務所

成田茂弁護士先生様であります。

ドラマのエンドロールにハッキリと表示されております。

 

今回の教材は・・・

走る!国選弁護人

完全黙秘・初登場弁護士高杉貫一郎の窮地

(2004年放送。まだ裁判員制度がなかった時代。被疑者国選もなかった)

完全黙秘という言葉に惹かれて、観察することにした。

 

 

 

主役の弁護士は、村田雄浩。

男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」で「足が長くて格好いい」ランちゃんの恋人役を演じた。

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寅次郎かもめ歌より

2時間サスペンス「絆」では、精神に障害のあるランちゃんの弟も演じている。

2020/12/28 07:40-09:40(120分)

CATV500ch チャンネルNECO にて放送あり

あだち充原作で実写ドラマ化された「陽当たり良好」(伊藤さやか主演)では、「見た目が怖~い」応援団長を演じた。

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応援団長

今では、どちらかというと見た目とギャップのある「優しい役」「気弱な役」が多いようだ。

スーちゃん主演(?)のNHK朝ドラ「ちゅらさん」でも気弱な隣人を演じている。

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「似ている!」と妄想モードに入った柴田さん

高杉弁護士は、息子の説明によると、離婚事件などよりも、刑事事件が好き。というボクみたいな弁護士だ。

儲からないので、妻(川上麻衣子)は塾の先生をして家計を支え、一戸建の家を持つことを夢見ている。そうか、ボクに足らなかったのは、塾の先生をして支えてくれる妻だったのか。

 

 

まずは

第一回公判の様子を覗いてみよう。

 

裁判長:起訴状の朗読を
(起訴状には、被告人の住所や氏名とともに、これから開かれる裁判の対象となる事件の概要(公訴事実)が書かれており、それを読み上げるところから裁判が始まる。裁判長が、起訴状の朗読を促しても、検察官は、被告人の住所や氏名等を朗読することは無く、公訴事実と罪名罰条だけ朗読する)

検察官:公訴事実

 被告人は、平成15年7月6日午後10時20分頃、大津市浜大津5の4春田ビルの北側道路をバイクで走行中、同ビルの駐車場から道路に発進してきた同ビルのオーナー春田敏和(51才)運転の乗用車と被告人のバイクが接触しそうになり、言い争う内に喧嘩となり、同駐車場の隅にに置いてあった工事用の鉄パイプで、被告人は同人を殴打し、頭部挫傷および頸椎骨折の傷害を与えて逃走、同人はそのまま現場に放置され、救急車で大津市春日井町二丁目3番所在の大津北市民病院に運ばれたが、同日1時38分頃、同病院において、頭部挫傷および頸椎骨折により死に至らしめたものである。 

罪名及び罰条 傷害致死 刑法第205条 終わります。

裁判長:被告人には黙秘権があります。・・・略

裁判長:被告人は、今検事が読み上げた起訴状の中でどこか違っているところがありますか。

被告人:ありません。

裁判長:弁護人は?

弁護人:ありません。

裁判長:(検察官に向かって)それじゃあ、冒頭陳述を

検察官:(立ち上がって、書面を手に持ち、読み上げる)被告人に対する冒頭被告事件について、検察官が証明しようとする事実は以下のとおりである・・・・・

 

周辺事情を知らなくても、この公訴事実を読んだ法曹資格者なら、何カ所か赤を入れて書き直したくなる。

つまり、形式的な誤りが沢山ある。
さあ、あなたは、何カ所見つけられるかな?

末尾に、ブログ主なりの公訴事実を書いておくから、参考にしてくれたまい。

 

事件は滋賀県で起きた。裁判所も大津地方裁判所だし、起訴したのは大津地方検察庁の検察官だ。

(だが、被告人が収監されているのは、京都拘置所だ)

全国どこの検察庁でも、担当検察官が起訴状を作成し、裁判所に提出する前に、上司が決裁する。大津地検程度の規模だと、次席検事が最終決裁をするだろう。次席検事が、怠慢で(無能で)見過ごしたんだろうか。

それとも、ドラマの法律監修者の見落としか!

見落とし、というには、あまりにも大きなミスだらけなのだが。

かく言うボクも、テレビドラマの法律監修をした経験がある。テーマは当番弁護士だった。ドラマ進行上に大きなミスを発見し指摘したが、それはドラマの核となる部分で、それを直してしまうと、ドラマのストーリーが90度曲がってしまう。ということで、ボクの意見は却下された。幸いにして、先輩弁護士(刑事弁護は素人)の下請け仕事だったので、ボクの名前はエンドロールに乗らなかったので、恥をかかずに済んだ。

しかし、このドラマで、公訴事実の間違いを直したところで、ストーリーに影響は一つもない。訂正の意見が通らない理由が見つからない。法律監修者が、訂正の意見を出さなかったと考えるのが妥当では無かろうか。

念のため、このドラマの法律監修は成田茂弁護士先生様である。

 

 

 

そして、検察官の冒頭陳述だが、好意的に解釈して「冒頭被告事件」と書き起こしたが、どうしたものか。

聞き流すと「強盗被告事件」に聞こえるのである。だとしたら明確な誤りだ。だって、本件は「傷害致死被告事件」なのだから。

しかし「冒頭被告事件」って言うかな?そんな言葉、聞いたことないぞ。せめて「頭書被告事件」だろう。それなら、ありそうな気もする。

 

 

さて、第一回公判日から、少し時を戻そう。

 

本件は国選弁護事件である。

現在では(平成18年10月2日以降)、国選弁護人の候補者を法テラスが(弁護士会の指名に基づいて)裁判所に通知し、裁判所は、その通知に基づいて国選弁護人を選任する。

このドラマの頃は、まだ法テラス制度がなく、裁判所が直接弁護士会に推薦を求め、その推薦に基づいて国選弁護人を選任していた。

弁護士会内部での推薦方法は各弁護士会によって様々である。

ドラマの対象となった滋賀弁護士会では、国選弁護配点日が決まっていて、その日に弁護士会館に行くと、国選弁護人を募集している事件が並んでいて、会員弁護士が、そこから事件を選び(立候補し)、裁判所の選任を受けると言う設定である。

(ブログ主は、実際の滋賀の取扱を知らないので、無責任な発言になるが、おそらく実際は異なると思う。その方法は、東京のような大規模弁護士会で取られていた方法であり、失礼ながら、滋賀のような小規模弁護士会では採用されていなかったと想像する。脚本家が東京の方法しか知らず、全国も一律同様と安易に考えていたのであろう

 

 

国選弁護人の選任は、細かく言うと、国選弁護人を選任すべき要件が整ったので、当該被疑者被告人に「国選弁護人を付す決定」と、具体的な人選が終わって、その弁護士を弁護人に選任するという「弁護人選任命令」の二段階に分けることが出来る。前者は、黙示的になされ、明瞭に記録に残されることは無い。後者は、命令書が作成され、弁護人と被疑者被告人に交付される。

 

ドラマに戻ろう。

高杉弁護士は国選弁護配点日に弁護士会館に向かうが、途中、ひったくり事件に遭遇し、犯人を追いかけ逮捕するというハプニングがあり、集合時間に大幅に遅刻する。

すでに、総ての国選弁護事件は、他の弁護士が持って行ってしまい、在庫ゼロであった。あら、残念。

そこに現れた滋賀弁護士会の重鎮弁護士植木等(日本一の無責任男)。弁護士会の会長である。高杉弁護士は、初めてお目にかかります。と挨拶するが、滋賀弁護士会の小規模会で、お互いに見知らぬ人など居ないだろう。ましてや会長ともなれば。

植木等は、ある事件を高杉弁護士のために取り置いてくれた。在庫ゼロではなかったのだ。植木等は、この事件を難事件と見破って、見込みのある高杉弁護士に、あえて、あてがったのである(本当か?)。

国選弁護事件配点の時点で、弁護人に示されるのは起訴状と第一回公判日の予定だけ。その他、事件がニュースなどになっていれば、それは自然と耳に入るかも知れないが。

仮にニュースになっていたとしても、今回の被告人は自白している。難事件になりそうもない(高杉弁護士も、国選弁護人になた当初は難事件とは思ってもいなかった)。それなのに難事件だと論破した植木等ただ者では無い。

植木等「あなたの今度担当する事件はこれです。傷害致死事件です。若い頃の苦労は買ってでもしろと言います。勉強になりますよ」と言って去って行った。さすが日本一の無責任男である。

 

(高杉弁護士独白)刑事事件の裁判では、被告人の経済的な理由などで自分の弁護人を頼めない場合には、刑事訴訟法第36条第37条第38条により、裁判所が弁護士会に国選の推薦を依頼し、名簿に登録された弁護士が選任されます。まず、弁護士会館で受任手続をして、それから裁判所で「国選弁護人選任命令」を交付してもらって、私は立花克己の傷害致死被告事件の国選弁護人となるのです。

 

おーい、だれか法学部の学生をひとり呼んでくれないか。学生レベルでも、ここに沢山の間違いがあることが分かるだろう。

刑事裁判や国選弁護制度を知らない視聴者に分かりやすく説明するための独白であろうが、あまりにも酷い。

ただ、六法全書を見ないで、実務だけダラダラやっていると、こういう誤解をする弁護士もいないとも限らない。

 

解説しよう。

前半「刑事事件の裁判では・・・弁護士が選任されます。」の部分には、大きな間違いは無い。

「裁判所が弁護士会に国選の推薦を依頼し」ということは、事実行われていた。

ここで「国選」というのは、正確には「国選弁護人となる候補の弁護士」である。ちょっと省略しすぎて、理解を困難にしている。

ただ、この書き方だと「裁判所が弁護士会に国選の推薦を依頼し」が、刑事訴訟法36~38に基づく法律上の行為と受け取られるであろう。しかし、刑事訴訟法には、そのような規定は、どこにもない(なかった)。

ここに至ったのには、先輩弁護士たちの長く苦しい戦いがあったのだが、それを書いていると年が明けてしまう。

単純に言うと、裁判所が扱いやすい弁護士を選んで選任すると、被告人のためにならない。だから、弁護士会がその事件に適任の弁護士を推薦するから、裁判所は「原則として」その推薦を丸呑みして、その弁護士を国選弁護人に選任する。という紳士協定のようなものを作り、守ってきた。

(実際に、その事件を担当するに適任の弁護士を推薦できているか、というと、刑事弁護委員会が注目するような大事件には、それなりの弁護人を手配しているが、それ以外の(そして大部分の)事件については、弁護士会は人選に関与せず、各弁護士が勝手に事件を選んでいるのが実状である。改善が望まれるが、そう簡単なことでは無い)

法律的には、国選弁護人の選任には、上記水色部分の様に二段階の手続がある。第一段階の「国選弁護人を付する旨の決定」をした事件は、裁判所が弁護士会に、国選弁護人となるべき弁護士の推薦を依頼する。

実務的には、国選弁護配点日に弁護士会に行くと、裁判所から国選弁護人の推薦依頼があった事件が並んでいる。集まった弁護士が「この事件、私が担当します」と弁護士会の職員に申し出て、弁護士会が「この事件には、この弁護士を推薦します」という書面を発行する。

次が第二段階で、その書面を持って裁判所に行くと、裁判所は丸呑みして、その弁護士を国選弁護人に選任して「国選弁護人選任命令」を交付する。

高杉弁護士独白の後半部分がデタラメであること。

実務だけ見ていると、弁護士会で事件を選び、職員に申し出て書面を貰った段階で、国選弁護人になったつもりになることも、なきにしもあらず。

実際、その書面だけ貰って、裁判所に行くのを失念し、国選弁護人選任命令の交付を受けない(忘れる)弁護士がいる。普通なら「あ、忘れてた」と次の日に受け取りに行き問題にならない。が、完全に失念してしまうと、裁判所から弁護士会に「この事件の国選弁護人の推薦がまだないのだが、どうなっているか」と問い合わせが来る。弁護士会としては、すでに弁護士を決めて推薦書類を渡しているので、既済案件になっている。あらまあ。ということで、書類を渡した弁護士に電話をかけて質問する。「あ、忘れてました」という弁護士は、まだ、良い方で、「弁護士会で選任して貰いましたけど。なにか問題でも?」という弁護士も、少ないながら居るのである。

高杉弁護士の独白は、その類いだ。

ドラマでは、高杉弁護士はそのまま裁判所に行き、国選弁護人選任命令の交付を受けたからOK牧場だ。(そのために、わざわざ事務員を裁判所に同行させたのは無意味であるが)

 

高杉弁護士の独白では、刑事訴訟法36・37・38条を引用していた。

平成一六年五月二八日法律第六二号による刑事訴訟法の大改正により、刑事訴訟法第36条から第38条には、沢山の枝番がついて条文数が大幅に増加したが、それ以前には、36・37・38の3箇条しかなかった。

第三十六条 被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。但し、被告人以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。 
第三十七条 左の場合に被告人に弁護人がないときは、裁判所は、職権で弁護人を附することができる。
一~三 略 
 被告人が心神喪失者又は心神耗弱者である疑があるとき。
 略
第三十八条 この法律の規定に基づいて裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付すべき弁護人は、弁護士の中からこれを選任しなければならない。
 前項の規定により選任された弁護人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。
第38条の引用は明らかな間違い。高杉弁護士の独白は、国選弁護人の選任手続の説明だ。第38条は、国選弁護人は弁護士に限ると、報酬の規定であって、選任手続とは無関係だ。
さらに、第37条は、滅多に適用されない例外規定なので、一般視聴者に説明するだけなら、第36条ひとつだけにしておくべきだった。
ドラマに戻る。
国選弁護人選任命令を貰い、国選弁護人となった高杉弁護士は、被告人に会う前に担当検事を訪ねる。

検事:被害者の車と被告人のバイクが接触しそうになり、それが原因で口論となり、バイクの男が乱暴で残虐性があって、傷を負わせたまま放置したために被害者が死に至ったわけでして、傷害致死未必の故意か多少見解の分かれるとことですが証拠も明白、被告人も素直に自白してますから、ま、問題ないんじゃ無いですか。

高杉弁護士:相づちを打ちながら検事の説明を聞き、そのまま帰る。その後、被告人との接見に向かう。

 

若干の説明を加えると「傷害致死未必の故意か」の意味が一般の方々にはチンプンカンプンであろう。

被告人が殺傷能力のある鉄パイプで被害者を殴って、結果として、被害者は死亡した。

被告人に殺意があれば、殺人事件である。

被告人に殺意は無く、怪我をさせるだけのつもりだったら傷害致死である。

ふたつの罪は、被告人の意識だけで区別される。

未必の故意」というのは、被告人が被害者を鉄パイプで殴ったとき、「殺してやる!」とまでは思っていないが、「死ぬかも知れないな。ま、死んじゃってもいいや」と思っていた心理状態を言う。これは「殺意」と認定される。つまり、この事件は殺人事件になる。

被告人が「死ぬかも知れない?まさか。殺すつもりは無いよ。死んじゃ困るよ」と思っていたら「殺意」はなく、傷害致死事件になる。

その被告人の心理状態が微妙な事件ですよ。と検事は言っているわけだ。微妙なのだから、検事は強気に出て、本件を殺人罪で起訴する可能性もあった。ところが、検事が半歩譲って、軽い方の傷害致死で起訴した。だから弁護人としても文句ないでしょ(殺人で起訴したら、争うでしょうけど)。という長~い会話が、一瞬の内に検事と弁護士の2人の専門家の間で交わされていたのだ。ドラマでは、その説明が不十分だったと言えよう。

 

高杉弁護士(独白)私はまず被告人に会うことにしたんです。公判で弁護する人物の人柄を知っておこうと思ったからです。

 

この時点で、高杉弁護士は、まだ裁判記録の閲覧も謄写もしていない様子だ。つまり、どんな証拠があるか知らない。これは良いことだと思う。

修習生のとき、刑弁教官に教わったことで、覚えているのは2つだけ。

① 記録を読む前に被告人に会って事実を聞け。記録には有罪の証拠しかないから、先に読んで変な先入観をもってはならない。

② なにかを取り下げるときには、取下書は依頼者本人に署名して貰え。

あの刑弁教官にしては、いいことを言ったと思う。2つだけだけど。

 

①の記録を読む前に被告人の言葉を聞け。は、実際には難しい課題である。

被告人に会うには、警察署または拘置所に行かなければならない。時間がかかる。その前に、少しでも事件の情報を得ておき、折角の機会だから、被告人になるべく沢山の質問をしたい。これは無理からぬ欲求だ。

記録を読まずに被告人に会うと、まず、被告人の生の声を聞く。それから、記録を読む。被告人の言葉と記録に書かれていることには、矛盾があることが多い。あるいは、記録にあるのに被告人が語らなかったことがある。それらを確かめるために、また、接見に行かなければならない。二度手間だ。だったら、先に記録を読んでいた方が合理的では無いか。

しかし、ボクは刑弁教官の残してくれた(2つしか無い)大切な言葉だから実践してきた。二度手間になったって良いじゃないか。

刑事弁護の基本は、1に接見、2に接見、3、4が接見、5が接見だ。合間に、記録を読んだり、関係者に事情を聞いたり、現場を見に行ったり、やるべきことは沢山あるが、とにかく大切なのは、被告人から事実を正確に聞き出すこと。被告人が言う事実が、他の証拠と一致していれば良いが、矛盾があったら、なぜ矛盾しているのか、徹底的に追及しなければならない。それも、被告人と接見をして、被告人と意見交換することが基本である。接見と厭う人は立派な刑事弁護人にはなれないと覚悟した方が良いだろう。そして、数多く会うことで、被告人との信頼関係も濃密になっていく。

 

高杉弁護士は、記録は読まなかったけど、担当検事に会って、強い先入観を植え付けられてしまったよ。

被告人から事実も聞いていない。記録も読んでいない。つまり事件について、起訴状以外の情報を何も持っていない。そんな純真無垢な赤ちゃん状態で検事に会って何をするつもりだったのだろう。洗脳されるだけじゃ無いか。百害あって一利なし。とはこのことを言う。

独白で「まず被告人に会う」と言っているが、先に検事に会っているでは無いか。全然「まず」ではない。

 

そして、被告人に会う目的が「人柄を知るため」と来た。裁判において、被告人の人柄が無意味だとは言わない。しかし、重要性は低い。

法廷で「裁判官、この人は本当は良い人なんですよ。そんな悪いことするはずがないんです。無実なんです。信じて下さいよ」と言っても、裁判官は無視するだけだろう。

 

次に、接見室に場面を移そう。

弁護人と被告人の初対面だ。弁護人が被告人の名前を聞き人違で無いことを確認し、弁護人の自己紹介から始まった。

弁護士。と聞いて若干驚いた被告人。それダメー!

留置係の人が面会人だ。と呼びに来るときに、相手が弁護士であることは伝えていまーす。

国選といいましてね、費用のことは心配ありません。それは裁判所が払いますから。
この言葉も不正確なのだが、今日は踏み込まない。興味があったら、勉強しておいてくれたまい。

人柄を知りたい。と独白しておきながら、人柄については何も訊ねず(人柄って本人に尋ねても分からないか。第三者から評判を聞くか、本人を観察するか)、事件のことを聞き始めた弁護人。

まだ記録を読んでいないから、事件について何も知らないはず。それなのに、かなり具体的に聞いている。検察官から洗脳された影響だろう。

弁護人:あなた、被害者の春田敏和さんとは、本当に面識が無かったんですか。

被告人:ありません。

弁護人:駐車場の隅に置いてあった鉄パイプで殴ったとありますが、ただの喧嘩にしてはかなり乱暴です。怪我では済まないと考えなかったんですか。

被告人:オレのバイクを蹴飛ばしたり、突き飛ばされたりしたんで、カーッとなって。

弁護人:血を流した被害者を、そのまま放置して、その場を離れたんですね。救急車を呼んだら助かったかもしれません。

被告人:すいません。

弁護人:自首をしたのは誰かと相談したのですか。

被告人:自分で決めました。・・・略

 

会話、成立しているじゃ無いか。

検察官も「被告人も素直に自白してますから」と言ってたし、法廷でも、公訴事実に対して「ありません」と自白している。

完全黙秘って、看板に偽りありだぜ。

訴えてやる。

(途中省略したが、弁護士が警察に行ったときも、自白したと刑事が言っていた)

 

被告人には、恋人がいた。

恋人とデート中に、携帯電話が鳴り、被告人は、突然彼女に別れを告げ、立ち去っていった。向かった先は警察署で、自首したのであった。

植木等がテレビで人権派弁護士としてインタビューに答えていた。それを偶然に見た恋人。匿名で植木等に電話をかけ、助けて下さい。あの人は無実です。と懇願する。

あの人って誰です。あー、あの人ですか。あの人なら心配要りませんよ。立派な弁護人が就いていますからね。

事件がどう推移しているのか、何も知らないのに、大丈夫と太鼓判を押す。さすが日本一の無責任男である。

 

法律事務所内で、国選弁護事件のコピー代が話題になった。これを肴に2晩くらい酒を酌み交わせるのだが、今日は、無視して次に行こう。

 

高杉弁護士が走り回って調査したところ、被告人と被害者に面識があったこと、被害者は被告人の恩人を自死に追い込んだ悪人であること、などが分かってきた。

しかし、証拠が揃わないし、ストーリーも固まらない。

困った高杉弁護士は裁判の延期を申し入れ、なんとか成功する。

 

裁判長は、たまたま会った植木等に、高杉弁護士から裁判の延期を申し出られて困っている。彼の狙いは何でしょう。と聞く。

植木等は、恐らく被告人の無罪でしょう。と答える。

何でも見抜く千里眼か。さすが人権派弁護士会長。事件の詳細を知らないのに、高杉弁護士が無罪を争うと予言してしまったよ。さすが日本一の無責任男である。

 

拘置所にいる被告人に、高杉弁護士が鰻を差し入れ、被告人が美味しく食べたらいいが、拘置所には、決まった出入り業者から決まった品物しか差し入れできない。
食べ物の場合、毒が入っているかも知れない。中に、脱獄用の鉄やすりが入っているかも知れない。

京都拘置所の扱いは知らないが、おそらく、鰻はむりではなかろうか。

ちなみに、ドラマでは、滋賀県の事件であるが、被告人は京都拘置所に勾留されている。滋賀県には拘置所がなく、彦根拘置支所はあるが、大津からは遠隔地であり、京都拘置所の方が近距離になるからであろうか。
しかし、大津には滋賀刑務所があり、刑務所内の拘置所区画には、大津地裁での裁判を控える被告らを収容しているので、わざわざ京都拘置所を使うのは間違いである。

 

様々なドラマが展開され、結局のところ、法廷で明らかにされた事件の真相は、こうだった。

被告人は、少年時代に悪さをして少年院に入っていたことがある。

少年院を出た被告人の面倒を見たのが保護司で、その人の会社で雇用して貰った、可愛がって貰った。その人の息子とは兄弟のように育てられた。

人のいい社長さんであった。

そこにつけ込んで、社長を騙した悪人2人組がいた。

一人は、30年来の社長の取引先だが、借金で苦しんでいた。

なんとしても一億円が必要だと、もう一人の悪人(今回の被害者、春田)から金を借りることにして、社長に頼み込んで保証人になって貰った。

そして、計画通り、金を借りた会社は倒産。そこの社長は夜逃げ。

保護司の社長は、一億円の保証人となって春田から追い込みを受ける。

自殺しろ、保険金が下りるだろう。と迫られ、保護司社長は夫婦で崖かが海に飛び込んで自殺した。

保護司の息子と、被告人は、悪人2人を恨んでいた。

春田は、保険金が下りただろう、金を払え。と保護司の息子を呼び出した。

口論となり、春田が鉄パイプを持ちだし殴りかかってきたところ、もみ合いになって、息子が鉄パイプを奪って振り回したら、春田の頭に当たって、春田は死んでしまった。

大変なことになった。と息子は、被告人に電話をした。

被告人は、恋人と別れ、事件現場に行き、身代わり犯人になることを申し出る。

息子には妻も子もあり守るべき家庭があるが、自分は独り身だからと。

そして、事件を自分が起こしたように現場の証拠工作をし、口裏合わせを十分におこなってから、警察に自首をした。

 

被告人は、傷害致死では無く、犯人隠避と証拠隠滅で、懲役2年、執行猶予3年。

訴因変更が認められたのかなあ。無理が無いか???

息子は、起訴された。正当防衛は認められなかったらしい。

起訴罪名は不明だが、おそらくは傷害致死

判決は、懲役3年、執行猶予5年。この事件も高杉弁護士が弁護を担当した。

 

生き残った方の悪人も捕まり、相応の処罰を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

公訴事実のモデル案を掲載しておこう。 

 

公訴事実。

 被告人は、平成15年7月6日午後10時20分頃、県道〇〇号線を東から西へバイクで走行中、大津市浜大津5の4春田ビルの北側地点で同ビルの駐車場から道路に発進してきた同ビルのオーナー春田敏和(51年)運転の乗用車に接触しそうとなったためバイクと共に転倒させられ、その事故を原因として同人と言い争う内に喧嘩となり、同駐車場の隅に置いてあった工事用の長さ約50センチメートルの鉄パイプで同人の頭部等を数回殴打し、頭部挫傷および頸椎骨折の傷害を与え、翌平成15年7月7日午前1時38分頃、大津市春日井町二丁目3番所在の大津北市民病院において、前記頭部挫傷に基づく硬膜下血腫による失血により同人を死に至らしめたものである。

 

ポイント

① 公訴事実は「被告人は」で始まる、被告人を主語とする1文で構成しなければならない。という厳しい掟がある。

 原文には「被告人は」が二度繰り返されており、主語が2つの2文になっている。これダメ。

 仮に、二度目の「被告人は」を記載する必然性があったとしても、「喧嘩となり、」「同駐車場の隅」の間である。文法的に誤り。

② 接触事故の場所特定が不十分である。

 原文では、大津市浜大津5の4春田ビルの北側道路とあるが、これはバイクで走行していた道路を特定するものである。接触事故が発生した地点を示すものではない。

 原文には、接触事故の現場を特定する文言はない。ヒントとして、同ビルの駐車場から道路に発進してきたという文言があり、そこで接触事故が起きたと読み込むことになるが、積極的に現場特定はしていない。

 さらに、春田ビルと駐車場が至近距離にあるか否か判然とせず、特定方法として不十分である。

③ 接触事故と言い争いの中間が省略されすぎている。

 なぜ、言い争いになったのか、分かるように記載すべきである。上記では、ドラマの再現場面から補充しておいた。

④ 凶器の鉄パイプの形状が想像できない。
 最低限、長さを記載すべきであろう。必要があれば直径も。重量などがよいかもしれない。人を殺傷する能力がある鉄パイプであることが分かるように記載する。

⑤ 被告人が被害者に加えた暴行行為が曖昧すぎる。

 道具は鉄パイプとわかるが、殴打した場所、回数、強さなど、書き込む必要がある。

⑥ 不要な事実記載がある。

 本件では、被告人が逃走したこと、被害者を放置したこと、救急車で搬送されたことは、余事記載(不必要)である。

⑦ 被害者の死亡時刻が矛盾している。

 午後10時20分に事件が発生し、同日1時に(午前でも、午後でも)被害者が死亡することはあり得ない。常識的に考えて、真夜中を回って翌日の午前1時過ぎであろう。このミスは致命傷だ。

これを直さなかったのは、成田茂弁護士先生様は、法律監修をしていないのと同じだ。

⑧ 死因の特定ができていない。

 死因とは、とても難しい概念である(脳死という概念ができて、死自体が定義困難なことは、横に置くとしても)。

 例えば、人の死は、他殺、自殺、事故死、病死などに分けられるが、刑事裁判における死因は、これらとは無関係である。

 次に、刺殺、毒殺、絞殺なども、ここでは不適切。

 本件では「鉄パイプで殴る」→「頭部挫傷および頸椎骨折」→「死亡」という順を踏んでいるが、「頭部挫傷および頸椎骨折」が被害者の体内で何を引き起こし、被害者を死亡させたのか。が具体的に示されなければならない。

 例えば「頭部挫傷」→「出血多量」→「失血死」、または「頸椎骨折」→「呼吸困難」→「窒息死」などである。原文は、漫然と2つの死因を提示しているが、実際はどちらか片方に特定できるはずである。死亡鑑定書を見て、正しく記載しなければならない。

 ドラマでは、残念ながら、その詳細は明らかにされなかった。とりあえず、失血死説を採用し、上記モデル案を作ってみた。

 

 まあ、ざっと数えても、こんなにあるぞ。困ったものである。

 

 さらに困ったのは、公訴事実の朗読を聞きながら、検察官の顔を睨み付けつつ、一生懸命メモを取っていた弁護人である。公訴事実が書かれた起訴状は、弁護人も持っている。検察官は、それを一字一句そのまま読み上げるだけである。なにを、必至にメモしていたのだろう???

 もしかして公訴事実を読み上げる検察官の似顔絵でも描いていたのかな。それはそれで、不謹慎だ。

 

 

 

*1 2時間サスペンスの法律監修 京都祇園入り婿刑事

今日の題材は

京都祇園入り婿刑事事件簿#11
「絢爛豪華な着物が招く連続殺人 花柳界に衝撃!消えた他殺体の謎!?わが子よ、着物に秘めた美人デザイナーの悲しい過去」

長いサブタイトルだ。

美人デザイナーを演じるのは、多岐川裕美。

サブタイトル通りの美人さんだ。結構好きなんで、見ることに。

 

入り婿刑事役は、ジプシー刑事こと飾り職人の秀さんが、京都府警の刑事に表の顔を変えて、悪い奴らを懲らしめる。

人気シリーズらしい。

合法的にやらないところが、秀さんらしいではないか。

じゃ、その違法性を暴いていこうか。

 

 

最初の殺人事件は、美人デザイナーのマネージメントをしている男(ヤマダカズノリ)が、石段の上で鈍器で頭を殴られて、石段を転落して死亡した事件。

美人デザイナーの娘(ナムラマユミ)が、事件そのものは見てないが、事件前後の犯人(アズマタカシ)を目撃し、証拠物件を持ち去った。

娘は、それをネタに、犯人を恐喝し1000万円を得ようと企んだ。

娘は、証拠物件を母親に預け、「私に何かあったら、袋を開けずそのまま警察に届けて。」と言い置いて、1000万円を受け取りに行く。

しかし、娘は犯人にクロロホルムを嗅がされ、略取され監禁される。

娘が行方不明になったと秀さんから聞いた母親は、娘が拉致られたことを察知する。母は、娘と証拠物件を交換する条件で、犯人と会う約束を取り付け、秀さんと二人で交換場所に行く。


犯人は、娘の両手を縛り、口にガムテープを貼って連れてきていた。

娘の頬には殴られたような痣が付いていた。

母と秀さんが現れると、犯人は秀さんが刑事であることを知っており、「なんで刑事なんか連れてきたんだ。」と激高し、娘にナイフを突きつけて、「近づくと娘を殺すぞ」と脅す。

・・・なんやかやで娘救出に成功・・・

逃げる犯人。

応援の刑事に助けられ、追いかけてきた秀さんが犯人を逮捕する。

その際の

秀さん刑事の決めゼリフ!

「アズマタカシ!ヤマダカズノリ殺害容疑、及び、ナムラマユミ拉致監禁、傷害の現行犯で逮捕する!!!」

 

刑事訴訟法

第二百十二条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
② 略
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
ナムラマユミ事件で現行犯逮捕するのは、まあ、いいだろう。

秀さん自身が、両手を縛られ、口をガムテープで塞がれ、頬に痣のあるマユミさんを見ているのだから、現行犯逮捕の要件は揃っていると言ってよかろう。

 

しかし

拉致監禁とはいかに?

おそらく北朝鮮による日本人拉致事件がキッカケと思うが、人さらいのことを「拉致」「拉致る」ということが多くなった。上記でも、意識的に一ヵ所で使ってみた。違和感は無かったのでは中廊下。(←この誤変換には違和感あり)


ところが、我が国の刑法には「拉致」という罪は存在しないのである。

対応するのは、この条文だ。「拉致」ではなく「略取」「誘拐」が刑法上の犯罪名である。

「略取」とは、暴力等を使って無理矢理連れ去ること。「誘拐」とは言葉巧みに騙して連れ去ること。

と大まかに理解しておこう。

(ちなみに、監禁罪は存在するから、正解。但し、怪我をさせているので、単純な監禁罪では無く、監禁致傷罪が本当の正解だろう)

刑法

(営利目的等略取及び誘拐)
第二百二十五条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
(身の代金目的略取等)
第二百二十五条の二 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。

(逮捕及び監禁)
第二百二十条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
(逮捕等致死傷)
第二百二十一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。



犯人は、最初から1000万円を支払う積もりはなく、娘(といっても、成人している)を捕らえて、証拠品の在処を聞き出し、奪還しようと試みたのだろう。だから、娘の顔に痣があるのだ。
ということは、刑法第二百二十五条営利目的等略取及び誘拐の罪ということになるな。
今回は、クロロホルムを使っているから「略取」だ。
しかし、拉致ではない。そもそも、拉致罪なんて、存在しないのだから。
途中から、娘の身を安否を憂慮する母親から、証拠物を取り戻そうとしたから、罪名が刑法第二百二十五条の二(身の代金目的略取等)第二項の罪に変更になっている。
いずれにしろ、目的部分は異なっても「略取罪」である。
秀さん刑事は、法律用語を間違えたようである。
もしかしたら、敢えて間違えたのかも知れない。なにしろ、非合法的に悪を懲らしめるのが趣味なのだから。


最大の問題は、

その一言前である。

秀さん刑事は「ヤマダカズノリ殺害容疑」でも逮捕する。と勇ましく宣言した。

しかしだ。

刑事訴訟法
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。

「ヤマダカズノリ殺害容疑」については現行犯ではないから、逮捕するには、裁判官のハッスル逮捕状が必要だ。
秀さん刑事が、お母さんに娘の行方不明を伝えるまで、秀さん刑事は犯人の名前すら知らなかった。お母さんが、犯人の目星を付けて連絡を取り、娘との交換を決めたのである。
それから、すぐに交換場所に向かったから、裁判官のハッスル逮捕状なんか用意する時間的余裕は無かった。つまり、逮捕状による逮捕はできない。

さてさて
日本の刑事訴訟法上、逮捕には3種類がある。
①逮捕状による通常逮捕
②現行犯逮捕
この2つは、説明墨田。誤変換。三つ目は、
緊急逮捕

刑事訴訟法
第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。

「ヤマダカズノリ殺害容疑」は殺人という重大犯罪で、死刑まであり得る。
刑法
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

緊急逮捕の要件の内、罪の種類は間違いなく満たしている。
娘が略取され、命の危険がある。急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、の要件も満たしていると言ってよいだろう。

しかし、

罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合
に当たるかどうかは微妙なところだ。

実際にドラマを見て貰わないと機微は伝わらないが、ヤマダカズノリがアズマタカシを殺した犯人だと、疑うに足りる充分な理由があるか、ちと疑わしい。
娘は殺害現場を見ておらず、その前後しか見ていない。つまり、確実な目撃証人ではない。
証拠物件も、科捜研に持ち込んで、沢口靖子達に鑑定して貰えば、ヤマダカズノリの指紋やら、付着物やらが出てくるだろうが、そんな余裕は無かった。
これが証拠です。と言う言葉だけなのだ。
ということで、この部分にも違法の臭いがプンプンしてくる。

それ以上に

絶対に許せない部分がある。
緊急逮捕に必要な
急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。
秀さん刑事は、逮捕状を求めることが出来ない理由を、被疑者であるヤマダカズノリに告げていないのである。
これは、明確に緊急逮捕の手続違反である。
有能な弁護人が就いたならば、必ず、そこを攻めてくる。たぶん、負けるだろう。
秀さん刑事、大失態の巻である。
否、非合法な手段で悪人を懲らしめるところが、秀さんの真骨頂なのである。

このドラマのエンドロールには、法律監修は出てこない。
弁護士等の指導を受けていないのだろうか。
最終責任は、監督である長尾啓司にあることになるのかな。