赤いブログ 弁護士を呼んでくれ

刑事弁護について、研究するブログです。

#接見国賠 #弁護士勝訴 #国敗訴

任意取り調べで弁護士の接見認めず

国に賠償命じる 東京地裁

 

2020年11月13日 18時32分

www3.nhk.or.jp

 

引用

東京地検特捜部が捜査した横領事件で弁護士が任意で取り調べを受けていたアパレル会社の元社長と接見できなかったと訴えた裁判で、東京地方裁判所は検察官が接見の機会を奪ったのは違法だと判断し、国に10万円の賠償を命じました。

 

勝訴したのは、第二東京弁護士会の櫻井弁護士です。

尊敬する先輩です。

 

 

※接見国賠とは:

 

刑事事件の被疑者として、逮捕されたり、勾留されたり、身体拘束を受けている人に、弁護士が面会することを「接見」と言います。

起訴されて被告人と呼ばれるようになってからの弁護士面会も、接見と呼びます。

弁護士の接見には、警察官が立ち会えません。立ち聞きもNGです。

警察に聞かれたくないことでも、自由に、弁護士に話すことが出来ます。

弁護士は、被疑者の自由な話を聞いて、取調べに、どのように立ち向かうか。などのアドバイスを行います。

そして、被疑者にとって弁護士のアドバイスを受ける権利はとても重要なので、原則として、弁護士はいつでも接見できることになっています。

 

ところが、警察や検察にしてみれば、弁護士が被疑者に知恵を付けると、取調べがやりにくくなる。できれば、弁護士に会わせたくない。

ですから、なんやかやと屁理屈を付けて、会わせないようにする。

弁護士が、交通事故の被疑者と接見するために警察署に行った。ところが、被疑者は、事故現場に行って実況見分しているから、接見できない。こういう場合はやむを得ません(警察署にいるか、事前に電話確認しなかった弁護士にミスがある)。

そういう事情もないのに、弁護士の接見を拒否すること(接見拒否)の殆どは違法です。

違法な拒否なのに、断られたからと、スゴスゴと帰って来る弁護士は、ダメ弁です。なんやかやの屁理屈を、法理論で論破して、接見しなければ一人前とは言えません。

ただ、そこで、会わせろ・会わせない・会わせろ・会わせない。と丁々発止と論争しているだけで、20分30分をムダに過ごすこともあります。それだけ接見が遅れるわけです。この遅延行為も違法です。

これを「接見妨害」と言います。

 

場所を、取調室に移しましょう。

取調室は、自白させたい警察官と、自白したくない被疑者との戦場です。そこに弁護士という味方は居ません。

片や百戦錬磨の取調べのプロ。

被疑者は、初めて逮捕され、オロオロしているか弱い存在。

勝負は明かです。

被疑者は、やってもいない犯罪をやったこととされたり、あいまいな動機だったのに立派な動機があったことになったり、意に添わない方向へ誘導されていきます。

そして、警察官が納得する自白が取れたら、それを書面にします。書面を読み上げて被疑者に聞かせ、間違いないな。と念を押して(その時点では、違います。という気力も失われています)、書面に署名、押印させます。ハンコを持って逮捕される人は稀ですから、左手の人差し指で指紋を押します。

こうして出来上がった書面を、供述調書と言います。

本当は、警察官が誘導に誘導を重ねて作り上げた物語が書かれているのですが、形の上では、警察官が尋ねたところ、被疑者が任意に供述したので、それを書き取った書面だ。被疑者の供述を書き取った書面だから、供述調書なのですね。

被疑者が任意に供述した体裁になっていますから、裁判になったときには強力な証拠になります。

 

話を、受付に戻しましょう。

会わせろ・会わせないで、30分ムダにしている間に、供述調書の読み聞かせが終わり、被疑者が署名と指紋を押してしまったら(俗に「指印」「ゆびいん」と読む)、それから後に弁護士が被疑者に接見できたとしても、後の祭りです。警察に有利な強力な証拠が出来上がってしまったのです。もう、廃棄はできません。

警察は、今取調べ中なので、接見できません。と臆面も無く言います。

酷いのになると、これから署名指印だけですから、すぐ終わります。10分ほどお待ち下さい。等というのもある。

それは、今、取調室という戦場で、警察が有利な戦況にあるから、弁護士に援軍に入ってくるな。と言っているのです。

弁護士は、断固として、援軍にならなければなりません。

そうは言っても、取調室に乱入することは、基本、できませんから、取調べを中断させ、接見して、被疑者に知恵を付けるのです。

それでも、会わせろ・会わせないで30分をムダにして、その間に、被疑者が署名指印してしまうかもしれません。

間に合わなかった。と諦めるのではなく、なぜ30分をムダにしたのか。それを証拠化して、裁判に備えなければなりません。

ボイスレコーダーで録音するのが良いのですが、常に持っている物でもありませんね。スマホの録音機能、録画機能を使うのも良い方法です。警察官は嫌がって、止めさせようとします。その光景を録画するだけでも意味があります。

あと対応している警察官の所属、階級、氏名を尋ねましょう。これだけで、後で裁判に呼び出されるかも、とビビって、会わせてくれる場合もあります。

のちのち裁判でも役に立ちます。

接見を申し入れた時刻、接見できた時刻も、記録しておきましょう。

録画のような「動かない証拠」(録画は動くんだけど、証拠の価値は動かない)がない場合には、あるいは、ない部分については、すぐに紙に書いて証拠に残しましょう。あるいはPCやスマホに入力しましょう。

念には念を入れるなら、紙の場合には近所のコンビニから事務所にFAXしましょう。FAXに受信時間が残りますから、直後に作成した信用性の高いメモであることが分かります。PCやスマホの場合、自分宛にメールを送りましょう。メールにも時刻が残ります。

なんでも活用して、沢山の証拠を残しましょう。

 

受付での論戦を行わずに、取調べを中止して、弁護士が接見できたら、被疑者から取調べの状況を聞き、不本意な自白をしたことにされてしまった。ということを知れば、弁護士は「まだ間に合う。署名指印はするな。そうすれば証拠として使えない」とアドバイスできたはずです。

たった30分でも、致命的な遅れになることもあるのです。

 

そういう場合には、その後の刑事裁判で、あの時の供述調書を証拠と採用してはならない。なぜならば・・・と証拠を揃えて争うことになります。

 

そして、もう一つ。

この接見妨害を行ったのは警察官です。警察官は、通常は地方公務員です。

検察庁で妨害が行われたら、妨害した人は国家公務員です。

いずれにしろ公務員ですね。

公務員の違法行為により損害を受けた場合には、国家賠償法に基づいて損害賠償を請求することが出来ます。その訴訟を、略して「国賠訴訟」と言います。

法律の名前は「国家賠償法」なので、国家公務員だけが対象と思いがちですが、地方公務員である警察官も含まれます。公権力を行使する公務員ですからね。

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

この国賠訴訟にも、もちろん証拠が大切です。

刑事裁判以外にも、国賠訴訟にも、Wで証拠が使えます。ですから証拠を残しておくことは、とっても大切です。

 

長くなりましたが、結論です。

違法な「接見妨害」に対する「国賠訴訟」を、さらに略して「接見国賠」と呼ぶのですね。

 

今回、裁判になった事件では、任意の取調べとのことなので、厳密には、法律上は身体拘束を受けていません。ですから、理屈の上では、取調べを断って帰宅することも自由です。

ドラマなどで「これは任意ですよね。帰っても良いんですよね。じゃ、帰りますから」と堂々と帰っていく人を見たことありませんか?

実際の事件で、あそこまで堂々と帰れる人は、まず、居ません。

先ほども書きましたが、取調室は戦場です。そうそう簡単に帰れる隙はみせません。勇気も必要です。

さらに、任意の取調べに応じている間は逮捕しないけど、協力しないなら逮捕する。という場合もあるので、軽々に帰るわけにも行きません。

法律上は帰れるけど、事実上は帰れない。これが任意の取調べなのです。

だから「接見妨害」で訴訟が可能だったんだね。

 

判例があると、教わりました。

 

平成5年11月16日/福岡高等裁判所/第5民事部/判決/平成3年(ネ)921号
判例ID 27817376
著名事件名 福岡任意取調中接見拒否損害賠償訴訟控訴審判決
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判結果 控訴棄却
上訴等 確定
出典
判例時報1480号82頁
判例タイムズ875号117頁
2 争点2(弁護権侵害行為の有無)について
 被疑者の弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)は、当然のことながら、その弁護活動の一環として、何時でも自由に被疑者に面会することができる。その理は、被疑者が任意同行に引き続いて捜査機関から取調べを受けている場合においても、基本的に変わるところはないと解するのが相当であるが、弁護人等は、任意取調べ中の被疑者と直接連絡を取ることができないから、取調べに当たる捜査機関としては、弁護人等から右被疑者に対する面会の申出があった場合には、弁護人等と面会時間の調整が整うなど特段の事情がない限り、取調べを中断して、その旨を被疑者に伝え、被疑者が面会を希望するときは、その実現のための措置を執るべきである。任意捜査の性格上、捜査機関が、社会通念上相当と認められる限度を超えて、被疑者に対する右伝達を遅らせ又は伝達後被疑者の行動の自由に制約を加えたときは、当該捜査機関の行為は、弁護人等の弁護活動を阻害するものとして違法と評され、国家賠償法一条一項の規定による損害賠償の対象となるものと解される。
 これを本件についてみるに、被控訴人は、昼休みの時間帯に田川署に赴き、A町長との面会を申し出たものであるが、B刑事課長からその旨の連絡を受けたC警部及び現にA町長の取調べに当たっていたD警部補は、捜査の都合を理由に、右申出があったことを速やかにA町長に伝達しないまま取調べを継続し、他方、被控訴人と直接折衝に当たったB刑事課長は、具体的な面接時間の調整を図るなど被控訴人の弁護活動に配慮した対応をせず、取調べ中の捜査官からの連絡を待つようにと一方的に通告する態度に終始した。加えて、本件でA町長が同行された場所は、被疑者側の誰にも知らされておらず、したがって、被控訴人は、田川署から車で一〇分以上掛かる別の場所でA町長の取調べが行われていることを知らないまま、その場で直ちに面会できることを期待してB刑事課長と交渉に当たっていたという経緯があり、以上のような具体的な状況の下では、B刑事課長及びC警部の行為は、社会通念上相当と認められる限度を超えて弁護人等の弁護活動を阻害した違法があるものと認められる。
  3 また、以上のような事実関係を総合すると、B刑事課長及びC警部は、被控訴人の弁護活動を阻害したことについて過失があったものと認められ、被控訴人は、これによって精神的苦痛を受けたことが認められるところ、右精神的苦痛を慰謝すべき額は、諸般の事情に鑑み、五万円をもって相当と認める。
 四 よって、本件控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官鍋山健 裁判官小長光馨一 裁判官西理)

 

5万円って安いね。